最高裁が初判断、被用者側から使用者への分担請求
2020/03/05 コンプライアンス, 民法・商法
はじめに
勤務中の事故で相手方に賠償金を支払った従業員が雇用主側に賠償金の分担を求めていた訴訟の上告審で最高裁は先月28日、雇用主への分担請求はできるとの判断を示しました。分担額算定のため二審大阪高裁に差し戻されたとのことです。今回は使用者責任と求償について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、物流大手の福山通運(広島県福山市)でトラック運転手として勤務していた原告の女性は大阪府内で起こした死亡事故により遺族に約1550万円の賠償金を支払ったとされます。原告女性は同社に対して賠償額を分担するよう求め提訴しておりました。一審大阪地裁は雇用主も相応の責任を負うべきとして同社に対し約840万円の支払いを命じました。しかし二審大阪高裁は一転、本来は事故を起こした従業員が全額負担すべきとして分担を否定しました。
使用者責任とは
民法715条1項によりますと、事業のために他人を使用する者は、被用者が業務の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負うとしています。これは事業のために他人を使用して利益を得ている者は、それにより発生した損害も負担すべきとする、いわゆる報償責任の原理によるものと言われております。しかし一方で715条3項では賠償した使用者は事故を起こした被用者に対して求償することも認められております。これは損害の公平な分担という見地から認められるものとされております(最判昭和51年7月8日)。
使用者責任の要件
(1)使用関係
使用者責任が生じる要件としてまず「ある事業のために他人を使用」していることが挙げられます。雇用者と被用者といった雇用関係がある場合が典型例ですが、そのような契約関係になくても実質的な指揮監督関係があればよいと言われております。その意味で指揮監督下にない弁護士や医師などは含まれないとされます。
(2)事業執行性
そして被用者が「事業の執行について」第三者に損害を加えたと認められる必要があります。これは使用者の事業とそれに密接不可分な業務の範囲内であり、被用者の職務の範囲内である必要があると言われております。そしてその職務の範囲内であるかは「行為の外形から」客観的に判断するとされております(最判昭和40年11月30日)。つまり実際には職務の範囲外であっても、第三者から見れば範囲内と言える場合には使用者責任が生じるということです。認められた例としては、会社の車を無断使用して交通事故を起こしたものや(最判昭和46年12月21日)、手形の偽造行為(最判昭和43年4月12日)、職場外の飲み会での従業員によるセクハラ行為などが挙げられます(大阪地裁平成10年12月21日)。
(3)免責事由
715条1項ただし書きでは使用者が被用者への選任監督上の相当の注意を尽くしていたことを証明した場合には責任は追わない旨が規定されております。しかしこれにより免責が認められた例はほぼ存在しないと言われております。
使用者の求償権について
会社の従業員の不法行為により損害を受けた場合、通常従業員自身に請求しても十分な賠償を受けられない場合が多いことから、被害者保護と報償責任の観点により使用者にも責任を認めたものがこの使用者責任です。しかし第一次的には損害を生じさせた従業員自身が責任を負うべきとも言えます。そこで715条3項では賠償をした使用者は被用者にも請求できるとしています。ただしその範囲は損害の公平な分担の見地から信義則上相当な範囲内とされております(最判51条7月8日)。
コメント
使用者責任の場合、本来は会社が従業員の起こした事故による賠償を行い、その後従業員に一定の範囲で求償していく流れとなります。しかし本件では逆に従業員が賠償してその後従業員が会社側に分担を求めているというものです。上記のとおり民法では会社側からの求償規定しか存在しておらず本件のような従業員側からの求償は明文規定はありません。最高裁は損害の公平な分担の観点から被用者側からも相当と認められる額の分担を求めることができるとの初判断を示しました。これは昭和51年判例から認められる原則に従ったものと考えられます。これにより従業員の起こした事故による損害は、その従業員が賠償しても相当な範囲内で会社も分担が必要となってくるものと言えます。今一度これらの使用者責任の要件や趣旨を見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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