えっ損害賠償請求?コロナによる債務不履行のリスク
2020/04/10 契約法務, 危機管理, 民法・商法, 法改正
はじめに
新型コロナウイルスの影響により世界の工場と言われている中国からの部品供給が相次いでストップし、工業製品の納期遅延が各所で発生しているようです。また、感染症による混乱により各所で代金の支払いが遅れ始めているようです(日産自動車によるイギリスなどの部品メーカーへの支払いが遅れていることがNHKの取材で4月2日判明)。
平常時であれば、契約の期限が守れなかった場合、損害賠償金や遅延損害金を請求されることがありますが、コロナウイルスの影響の場合はどうなるのでしょうか。
どの条文が適用されるか(2020年4月1日より新民法施行)
契約の期限が守られなかった場合、納入や代金の支払いを求める債権者は、一般的に(新又は旧)民法415条に基づいて、損害賠償請求を行います。この場合、条文に定められた要件(条件)を充たさなければ損害賠償請求はできません。
ここで、債務の発生時点及び債務発生の原因となった契約等が締結された時点により、旧415条、新415条のいずれが適用されるか異なります(旧民法415条は2020年4月1日施行の民法によって改正されました)。ただし、一般的には、旧415条をより分かりやすく表記したものが改正民法415条であるとされていますので、読みやすい新415条を検討します。
☆参照☆
■民法改正の趣旨について:民法(債権法)改正 - 法務省
■経過措置について:民法 附 則 (平成二九年六月二日法律第四四号)17条1項
①旧415条が適用される場合
・債務の発生時点(ex.代金支払期日)が2020年3月31日以前
・債務の発生時点が2020年4月1日以降だが、債務発生の原因となった法律行為
(契約締結等)は2020年3月31日以前になされた場合
②新415条が適用される場合
・債務の発生時点及び債務の発生原因行為が2020年4月1日以降
損害賠償請求の要件
さて、新民法415条1項は損害賠償をなすための要件を以下の通り定めています。
(1)債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき・・・は、
(2)債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。
(3)ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責に帰すことができない事由による ものであるときは、この限りでない。
契約の期限が守られなかった場合、一般的に、(1)「債務者がその本旨に従った履行をしないとき」にあたります。また、納品が遅れたことによって連鎖的に納品が遅れていった場合、納入先が得られるはずであった利益を奪うことになりますので、(2)「これによって生じた損害」と認められることが多いでしょう。
問題は、新型感染症に起因する納期の遅れ、支払いの遅延が(3)債務者の責めに帰すことができない事由によるものといえるかどうかです。
感染症による契約違反は「責めに帰することができない事由によるもの」か
一般的に天変地異などの不可抗力は「責めに帰することができない事由」に含まれるとされています。もちろん個別の状況によりますが、一般的には、短期間の爆発的な感染症は不可抗力にあたるでしょう。
ただし、もし感染症が不可抗力に当たるとしても、契約違反がこれに「よるものである」と認められる必要もあります。例えば、感染症によって原材料の仕入先の生産工場が止まったため、製品を作れなかった場合、他にも仕入先があるなら原材料を仕入れて製品を完成させることが不可能ではないことから、債務不履行が不可抗力によるものであるとは認められないかもしれません。
さらには、「債務者の責に帰することができない事由によるときは、この限りではない」と定められている以上、①感染症が不可抗力に当たること及び②感染症によって契約違反が生じたことを損害賠償請求を受けた側が立証しなければなりません。
かなり難しい判断になりますが、一般論としては、短期間における爆発的な感染症の場合、感染症によって契約違反が生じたと認められるのではないでしょうか。しかし、個別事情によっては、免責されずに損害賠償責任を負うこともあるやもしれません。
※上記の点は、契約書中に、天災等の不可抗力によって債務不履行(契約違反)に陥ったときはその責任を免除する旨の条項がある場合も同じように問題となりえます。
もし、問題が表面化した際は、上記の点が集中的に問題となりうることを踏まえて、なぜ契約を違反してしまうに至ったかを弁護士の方にお話するとスムーズに相談が進むかもしれません。
正論だけを武器にすべきか
さて、感染症による債務不履行の損害賠償請求のリスクについて概観しました。
どうしても結論は個別事情によるため、一般論しかお話できませんでしたが、理解の一助になれば幸いです。
ただ、
ここ何ヶ月か、コロナウイルスにより、どこにいってもマスクが手に入らず、スーパーの商品棚がびっくりするくらいガラガラの状況が続いています。催し物が延期し遊びにもいけなくなり、不便さに疲れてしまう方も多いでしょう。
そんな中、もし損害賠償請求されたらと思うと気が遠くなりそうです。
こうした閉塞感・停滞感がある中で、お互いの法的主張をぶつけ合う「法的紛争」までも抱え込むとなると、自社にとっても、取引先にとっても、その精神的な負担は小さくないものとなると思います。
こうしたご時世では、まずは、状況の報告・連絡・相談を密に行いながら、法的主張以外の、長期的な信頼関係の維持に向けた対話・対応を行うことが重要になるのではないでしょうか。
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