アップル訴訟で米裁判所に管轄権、国際裁判管轄について
2020/07/29 訴訟対応, 民事訴訟法, メーカー
はじめに
米アップル社に部品を納入していた「島野製作所」(東京)が不当な値下げやリベートの要求を受けていたとして同社に約100億円の損害賠償を求めていた訴訟の控訴審で22日、東京高裁は訴えを却下していたことがわかりました。裁判管轄が米国にあるとのことです。今回は国際裁判管轄について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、島野製作所はアップル社のサプライヤーとしてPCに使用する電源アダプターのプロープピンを開発製造しておりました。同社はアップル社の要請により量産体制を整えたものの、突然発注を停止され、取引を再開するために代金減額要求やリベート支払い要求に応じたとされます。これらの行為は独禁法の優越的地位の濫用や取引拒絶に該当するとして同社はアップル社を相手取り損害賠償を求め東京地裁に提訴しておりました。アップル側は同社との間で、紛争が生じた場合にはカリフォルニア州裁判所および連邦裁判所のみを専属管轄とする紛争解決条項があるとして却下を求めていたとのことです。
国際裁判管轄とは
日本国内で日本の個人または法人等と紛争が生じた場合、当然のことながら日本の裁判所に訴えを提起することができます。どこの裁判所に提起することができるかの問題は生じることがありますが、日本の裁判所に管轄権があることに変わりはありません。それでは外国の個人または法人等が相手の場合はどうでしょうか。どこの国の裁判所に管轄権が生じるのでしょうか。この問題を国際裁判管轄といいます。この問題に関して従来は国内の民事訴訟管轄規定を適用すれば日本の裁判所に管轄が認められる場合は日本に管轄権を認め、当事者間の公平性や裁判の適正・迅速性に反する特段の事情がある場合は否定する扱いをしておりました(最判平成9年11月11日)。その後平成23年民事訴訟法改正により規定が設けられております。
民事訴訟法による管轄規定
民事訴訟法によりますと、原則として相手方の住所、居所、法人の場合は主たる事務所・営業所、日本における代表者や営業担当社の住所が日本にある場合は日本の裁判所に管轄権が認められております(3条の2第1項~3項)。それ以外でも、①契約上の債務履行地が日本にある場合、②手形・小切手の支払地が日本にある場合、③請求の目的物が日本にある場合、④日本国内の事務所・営業所の業務に関する場合、⑤外国会社の日本国内での業務者の業務に関する場合、⑥船舶に関する債権で船舶が日本国内にある場合、⑦日本に不法行為地がある場合などに日本に管轄権が認められるとされております(3条の3各号)。
合意管轄
上記の規定による管轄以外にも、当事者間の合意によって裁判管轄を定めることができます(3条の7)。この場合の合意は「一定の法律関係に基づく訴え」について書面または電磁的記録で行われる必要があります(同条2項、3項)。また国外の裁判所のみを専属管轄とする合意の場合、その国の裁判所が法律上または事実上裁判権を行使できない場合にはこの合意を援用することはできません(同条4項)。消費者契約や労働紛争で相手国の消費者や労働者が自国の裁判所のみでしか訴訟を提起できないとする合意も無効とされます(同条5項、6項)。さらに管轄の合意がはなはだしく不合理で公序法に反するといった場合には無効となると考えられます(最判昭和50年11月28日)。
コメント
本件でアップル社と島野製作所の間で取り交わされた合意条項によりますと、紛争が生じた場合にはカリフォルニア州裁判所によるとなっておりました。一審東京地裁は、本件合意は当事者間の紛争であるという点以外なんら限定されておらず「一定の法律関係に基づく訴え」について定められていないとして無効と判断しました。一方二審東京高裁は合意内容は当事者の意向に沿うものとして有効と判断したとのことです。詳しい理由は不明ですが、合意内容を合理的に解釈すれば当事者間の部品供給に関する紛争と理解できるものと判断されたのではないかと思われます。以上のように現在では国際裁判管轄についてもかなり明確に定められております。海外企業との合意がある場合、それが有効かを予め確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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