公取委がヤフーとLINEの統合承認、企業結合規制について
2020/08/13 独禁法対応, 独占禁止法, IT
はじめに
公正取引委員会は4日、ソフトバンクグループでヤフーを傘下に持つZホールディングスとLINEの経営統合について承認する旨発表しました。統合後3年間公取委に報告するなどの条件が付けられているとのことです。今回は独禁法の企業結合規制について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ZホールディングスとLINEは昨年11月、経営統合の計画を公表し、当該行為が独禁法上競争の実質的制限にはならないとの意見書と共に公取委に届け出を行ったとされます。両社はオンラインショッピングや電子コンテンツの配信サービスなどを手掛けるデジタルプラットフォームで、両社の経営統合につき公取委は「ニュース配信事業」「広告関連事業」「コード決済事業」の分野に分けて審査を行っておりました。スマホ決済市場におけるZホールディングスの「ペイペイ」はシェア55%で業界1位とのことです。
企業結合規制とは
独禁法では株式取得、役員兼任、合併、会社分割、株式移転、事業譲り受け等について、それにより一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合にはこれらの行為が禁止されております(10条~16条)。これを一般に企業結合規制と言い、一定の規模を有する企業がこれらの行為を行う場合には事前に公取委に届け出る必要があります。届け出た会社は届け出受理の日から30日間は結合行為を実行することができなくなります。審査の結果独禁法上問題があれば排除措置命令が出されることとなります。
企業結合審査の流れ
企業結合を計画した当事会社は上記のように事前に公取委に届け出ることとなります。この際任意で事前に公取委と相談することもできます。届出後30日間は待機期間となり問題がなければその旨が通知されます。必要があれば公取委から報告等の提出が求められます。報告等を提出した場合90日以内に審査がされ、やはり問題がなければその旨通知されます。問題がある場合は意見聴取を経て排除措置命令が出される流れとなります。競争の実質的制限にならないことが明らかである場合は届け出会社の申し出により30日の待機期間を短縮することも可能となります。
届出義務がある企業
それではどのような企業に届出義務が課されているのでしょうか。合併の場合は国内売上高が200億円を超える会社が国内売上高50億円を超える会社と合併する場合に両当事会社に届け出義務が生じます(15条)。吸収分割の場合は売上高50億円を超える会社に200億円を超える会社が事業の全部を承継させる場合となります(15条の2)。株式取得の場合は売上高200億円を超える会社が売上高50億円を超える会社(子会社含め)の株式を取得し議決権割合が20%または50%を超える場合となります。いずれの場合も売上高200億円と50億円が目安となります。
競争の実質的制限
一定の取引分野とはその行為によって影響を与える市場を意味し、需要者から見た代替性等から判断されます。そして競争の実質的制限とは、企業結合により「ある程度自由に価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することができる状態」が発生すると見られる場合を言うとされております。基本的にはカルテルや談合などの不当な取引制限の場合と同様と言えます。ここで企業結合後の各社のシェアを2乗して合計した数値が1500以下の場合や1500~2500でかつ増加分が250以下である場合、2500を超えていても増加分が150以下の場合は競争の実質的制限に当たらないと言われております(セーフハーバー基準)。
コメント
本件で一定の取引分野として審理されていた市場は「ニュース配信事業」「広告関連事業」「コード決済事業」とされております。このうちニュース配信事業と広告関連事業については競争を実質的に制限することとなるとは言えないと判断されました。しかしコード決済事業に関しては本件経営統合により合算シェアが60%となり、今後の市場の状況等によっては競争の実質的制限となりうるとの懸念を払拭しきれないとされました。結合後3年間の報告と排他的な取引条件を課さないことを条件として承認されております。以上のように一定の売上高を有する企業同士が結合する場合は届出義務が課され、場合によっては条件が付けられる場合があります。手続きだけでなく、結合前後のシェアの推移なども予め把握して準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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