富士そば従業員が申し立て、労働審判手続について
2020/11/30 労務法務, 労働法全般, 外食
はじめに
立ち食いそば「名代富士そば」を運営するダイタングループ(渋谷区)の従業員16人が13日、同社に対して未払い残業代など計約2億5000万円支払いを求める労働審判を東京地裁に申し立てていたことがわかりました。勤務記録を書き換えていたとのことです。今回は労働審判手続きを見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ダイタングループの一部では従業員が残業しているにもかかわらず、残業していないように勤務記録の改ざんを長年行っていたとされます。同グループのうちダイタンディッシュ、ダイタンキッチン、ダイタンイートの3社では従業員が出勤している日に雇用調整助成金の対象となる「特別休暇」と記録したり、勤務中の従業員のタイムカードを午後6時頃にまとめて押して退勤扱いにし、毎月の締日に勤務記録を書き換えて残業記録を抹消したりしていたとのことです。月200時間の残業を記録上0にされていた例もあるとされます。
労働審判とは
労働審判とは、会社と労働者との間に生じた労働関係紛争を迅速かつ適正に解決することを目的として平成18年4月に導入された制度です。裁判官である労働審判官1人と労働関係の専門家である労働審判員2人で組織する労働審判委員会が審理し紛争解決を目指します。裁判官と専門家を交えて審理し、話し合いで解決しそうであれば調停が行われ、解決の見込みがなければ労働審判がなされます。それでも解決しない場合には通常訴訟に移行することとなります。なお労働審判の対象となるのは会社と労働者個人の労働問題に関する紛争のみで、従業員同士の問題や労働組合との紛争などは対象となりません。残業代不払いや懲戒処分、解雇や雇い止めなどが典型例となります。
労働審判の手続きの流れ
労働問題が生じ、労働審判の申し立てが地方裁判所になされますと裁判所により労働審判員が指定されます。そして労働審判委員会によって期日に審理がなされます。この審理は原則3回までとなっており、双方当事者出席のもと双方の言い分を聴いて争点を整理し必要に応じて証拠調べも行われます。話し合いが可能であれば調停が成立し終了します。そうでない場合は労働審判がなされ、解決案が提示されます。当事者に異議がなければ確定し終了します。異議が申し立てられた場合は労働審判は失効し通常訴訟手続きに移行することとなります。
労働審判のメリット・デメリット
労働審判手続きの一番のメリットはやはり簡易・迅速であることです。通常の民事訴訟だと1年近く、場合によっては年単位の期間がかかります。労働審判の場合は2ヶ月程度で終了することとなります。そして裁判官と労働問題の専門家である労働審判員が手続きを主導して審理が進められることから弁護士をつけていなくても客観的で公正・妥当な結論が期待できます。そのうえで通常訴訟よりも柔軟な解決策を提示することも可能です。逆にデメリットとしては双方の対立が強い場合、労働審判では終局的な解決が見込めず、結局訴訟によることになってしまう点です。労働審判は上記のように当事者が異議を申し立てた場合は失効し強制的に訴訟に移行するからです。この異議は特に正当な異議理由などは必要とされず当事者の意思次第と言えます。
コメント
本件でダイタングループは長年に渡って従業員の勤務記録を書き換え、残業していないように見せかけていたとされます。具体的な残業時間と未払い残業代については従業員側と会社側で争いがあるようですが、勤務記録の改ざんが常態化していた点については会社側も認めており、労働審判での解決も期待できると考えられます。以上のように労働審判は訴訟よりも簡易・迅速で労働者側に負担の少ない紛争解決手段と言えます。労働審判が申し立てられた場合、裁判所からその写しや証拠書類の写し、そして第一回期日が通知されます。通常1ヶ月から40日程度しか時間は無く、その間に事実確認をして答弁書を用意する必要があります。ここで丁寧に対応しておかなければ今後の審理や訴訟に移行した際に不利になる可能性が高いと言えます。申し立てがなされた場合には専門家と相談するなど迅速に対応しておくことが重要と言えるでしょう。
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