大阪地裁「通勤手当不支給、不合理と言えず」非正規社員の待遇格差について
2021/03/01 労務法務, 労働法全般, 労働者派遣法, その他
はじめに
人材派遣大手「リクルートスタッフィング」の派遣社員だった大阪府内の40代男性が、通勤手当が支給されなかったのは違法として同社に対し約60万円の支払いを求めていた訴訟で25日、大阪地裁は請求を棄却していたことがわかりました。不合理な待遇格差とは言えないとのことです。今回は正社員と非正規社員の待遇格差について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告の男性は2014~17年に同社と雇用契約を締結し大阪府内等の5ヶ所の派遣先で勤務してきたとされます。しかし同男性には通勤手当が支給されていなかったため、正社員と比べ不合理な待遇格差に当たり、労働契約法20条に違反するとして交通費約60万円の支払いを求め大阪地裁に提訴しておりました。なお同社では国の働き方改革推進を受け2020年4月からは派遣社員にも通勤手当を支給しているとのことです。
不合理な待遇格差の禁止
パート・有期雇用労働法8条(旧労働契約法20条)によりますと、事業者は雇用するパートタイム・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇について通常の労働者との間に不合理な相違を設けてはならないとしております。不合理な格差と認められるかどうかの判断にあたっては、個々の待遇ごとにその性質・目的に照らして、職務の内容、職務配置の変更の範囲、その他の事情を総合的に考慮されることとなります。なお①職務の内容が通常の労働者と同じ、かつ②職務の内容・配置の変更の範囲が雇用関係が終了するまでの全期間において通常の労働者と同じである場合には全ての待遇について差別的取り扱いが禁止されます(9条)。
同一労働同一賃金ガイドライン
厚労省の同一動労同一賃金ガイドラインによりますと、非正規社員についての各種待遇の原則的な考え方が示されております。賃金については能力または経験、業績・成果、勤続年数に応じて正規社員と同じであれば同一の支給が求められます。また両者で賃金決定の基準が異なる場合、「将来の役割期待が異なるため」といった主観的抽象的理由では足りず、職務内容、職務・配置変更の範囲その他の事情から客観的具体的な理由が必要とされます。通勤手当、役職手当、賞与についても、役職や貢献等が同等である場合は原則として同様に支給する必要があるとされております。
待遇格差に関する裁判例
これまでにも取り上げてきましたが、平成30年6月1日に最高裁で非正規の待遇格差に関する2つの判決(長澤運輸事件、ハマキョウレックス事件)がでました。そこではいくつかの手当について格差が不合理であるとの判断が出ております。不合理とされたのは無事故手当、作業手当、給食手当、皆勤手当、精勤手当、時間外手当、通勤手当です。いずれもその手当の目的や趣旨から正規社員と非正規社員のいずれにも当てはまる場合には、そこに格差を設けることは不合理と判断しております。一方住宅手当、家族手当、役付手当については格差に不合理はないとしております。正規社員の転居を伴う配転の可能性や幅広い年齢層、正規特有の役付けの有無などが考慮されたものと言えます。
コメント
本件で大阪地裁は、全国規模で人事異動がある正社員と比べ、派遣社員は配置転換が無く、業務内容や責任も異なると指摘し、また派遣先を選ぶ際に交通費が自己負担となることも原告男性は承知していたとして通勤手当の不支給は不合理では無いとしました。上記のように待遇格差の合理性についてはその手当の目的や趣旨が正規・非正規の両者に当てはまるかを詳細に判断していきます。配転の有無や業務内容、責任の大きさがどのように通勤手当不支給の合理性判断に影響を与えたかは不明ですが、今後控訴審では結論は覆ることもあり得ると考えられます。近年非正規労働者の待遇格差には合理的客観的な理由が求められます。今一度自社での扱いを見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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