東京地裁がLINEに賠償命令、特許侵害訴訟について
2021/05/24 知財・ライセンス, 特許法, その他
はじめに
互いにスマホを振ることによって連絡先を交換するLINE社の「ふるふる機能」が特許権を侵害しているとして賠償を求められていた訴訟で19日、東京地裁はLINE社に約1400万円の支払いを命じていたことがわかりました。原告とはすでに和解が成立しているとのことです。今回は特許侵害訴訟について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、LINE社は2011年にLINE利用者同士が近くでスマホを一緒に振ると、相手のアカウントが表示され友達として登録できる「ふるふる機能」を開始しました。これに対しシステム開発会社「フューチャーアイ」(京都市)は同社に対し自社の特許権を侵害しているとして3億円の損害賠償を求め東京地裁に提訴しました。フューチャーアイは携帯の位置情報を使って同じ時刻に同じ場所にいるユーザー同士を交流先リストに追加するシステムを開発し2010年に特許出願し17年に登録されていたとされます。LINE側は簡単に発明でき特許は無効であると反論していたとのことです。
特許侵害訴訟の流れ
自己の特許権が侵害された際に提起する特許侵害訴訟の大まかな流れは次のとおりです。まず東日本では東京地裁に、西日本では大阪地裁に提訴することとなります。特許権、実用新案権、回路配置利用権、プログラム著作権についてはこれらの裁判所が専属管轄となります(民事訴訟法6条)。訴状審査を経て被告に訴状と第一回口頭弁論の呼出状が送達されます。口頭弁論では互いに書面等を提出して主張立証していき、場合によっては証人尋問や当事者尋問が行われ、審理がすべて終結すると判決言渡し日に判決を言渡し、判決書が送達されます。これらの各段階で和解の協議がなされることも多いと言えます。
特許侵害訴訟の審理
特許侵害訴訟ではまず特許権の侵害が生じているのかを審理します。これは一般的に侵害論と呼ばれ被告の製品が特許発明に抵触しているか否かを問題とします。次にそもそも原告側の主張する特許権は無効理由があるのではないかという点を審理します。これは無効論と呼ばれます。そしてこれらの審理の結果特許侵害があるとされた場合、それによって原告が被った損害はどの程度かを審理する損害論に移行します。特許侵害が認められた場合、裁判所は損害賠償のほかに侵害行為の差し止め、侵害している製品の在庫や生産に使う金型等の廃棄、謝罪広告等の信用回復措置などを命じることができます(特許法100条、102条)。
特許侵害の主張を受けた場合
それでは逆に自社が特許侵害していると主張された場合はどう対処すべきでしょうか。まず相手側の特許の内容を調査し、無効理由が無いかを検討します。特許として認められるためには、産業上利用可能な発明、新規性、進歩性、先願、公序良俗に反しないことが要件とされております。実際にはこれらの要件が満たされていないのに登録されてしまうことも少なくなく、特に新規性や進歩性を否定できる場合もしばしば見られます。特許庁の審査段階では海外での刊行物まで調べ尽くすことは困難であることから新規制がすでに失われているにもかかわらず登録されることもあると言えるからです。また発明の内容が出願時の水準で容易に考えつくものであれば進歩性が否定されると言えます。このような場合には無効審判請求や訴訟での抗弁を行っていくこととなります。
コメント
本件でLINE社側はフューチャーアイが保有する特許に対し、同社の発明とは異なること、また簡単に発明でき無効であると反論しておりました。当時の水準で容易に考えつくものであり進歩性が無いとの抗弁と言えます。これに対し東京地裁は、接近が知らされると相互のIDが交換される技術であるとし、発明は簡単なものではないとして被告側の反論を退けました。以上のように特許をめぐる紛争には一定の手続きの流れがあります。判断には専門的な知識が必要なことから東京地裁や大阪地裁、知財高裁に専属管轄が規定されており、無効審判手続きなども用意されております。特許に関する紛争が生じた場合には知財訴訟の専門家に相談するなど、慎重に対応していくことが重要と言えるでしょう。
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