エイベックスがサイバーエージェントに第三者割当、自己株式について
2021/05/28 商事法務, 戦略法務, 会社法, その他
はじめに
エイベックスは27日、サイバーエージェントを割当て先とする自己株式の処分を行うと発表しました。処分数は普通株式350万株とのことです。今回は会社法が規定する自己株式について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、エイベックスの今回の自己株式処分は、テクノロジーの進化によるエンターテイメントの多様性とコロナ禍によるライヴ事業の困難性から強固な事業基盤と財務基盤を有する外部パートナーを獲得することなどを目的としております。音楽配信サービス「AWA」を共同で展開することや「ABEMA」での同社タレント出演など幅広い協業関係があることから、処分先をサイバーエージェントを選定したとのことです。処分数は350万株で、1株につき1488円、調達資金の額は約52億円とされます。処分の期日は6月14日を予定しております。
自己株式とは
自己株式とは、株式会社が発行した株式のうち、当該株式会社自身が保有する株式のことを言います(会社法113条4項)。募集株式発行が株式を発行して株主と資金を増やす行為であるのに対し、自己株式取得はその逆で株主から株式を引き取り資金を返還する側面を有します。取得した自己株式は再び株主に割当てたり消却することができます。従来日本では自己株式の取得は会社財産を減少させ会社債権者を害すること、会社支配目的の悪用、株式市場への悪影響、株主間の不公平を招くなど弊害が大きいことから原則として禁止されておりました。しかし昭和25年商法改正以後、順次解禁され現在では原則許容されております。自己株式には株主総会での議決権はなく(308条2項、325条)、剰余金配当や残余財産分配、募集株式の株主割当等の対象とはならないことに注意が必要です。
自己株式取得と財源規制
自己株式の取得は株主総会や取締役会の決議(155条、165条)によるほか、取得条項付株式の取得や譲渡制限株式の取得、取得請求権付株式の取得、全部取得条項付種類株式の取得、株式の相続人への売渡請求による取得、事業の譲り受けや組織再編など多種多様な原因によって実現することとなります。しかし上でも述べたように自己株式の取得は株式の払い戻しの側面があることから会社財産への影響を考慮する必要があります。そこで自己株式の取得は分配可能額の範囲内でなければなりません(461条1項1号~7号)。これを財源規制と言います。分配可能額は大まかには最終事業年度の末日における、その他資本剰余金とその他利益剰余金の合計額となります。例外的に財源規制が及ばないものとして、単元未満株の買取、事業譲渡、吸収合併、吸収分割等の組織再編による取得、無償取得、強制執行等による取得が挙げられます。
自己株式のメリット・デメリット
自己株式取得にはまず、市場に出回っている自社の株式を回収するものであることから株価を上昇させる効果があります。自社の株価が低迷している場合などに自社で取得して流通量を調整することが可能です。零細な少数派株主から回収して株主管理コストを抑えることなどにも利用できます。また敵対的買収が仕掛けられた際に買収を抑止するための対抗手段として利用するといった場合もあります。そして保有している自己株式は募集株式発行の代わりに株価を希釈することなく新たに資金調達の手段として割り当てることができます。一方デメリットとしては上述のような弊害や資金繰りの悪化などが考えられます。
コメント
本件でエイベックスはサイバーエージェントに対し350万株の自己株式を割り当てます。エイベックスは2014年にも「AWA」事業の合弁会社推進を目的としてサイバーエージェントに対し自己株式を200万株割当てており、現在サイバーエージェントはエイベックス株を約4.4%保有しているとされます。以上のように自己株式は新たに株式を発行することなく第三者に割り当てることで資金調達や事業連携を達成することが可能です。原則として財源規制に服するものの株主管理コスト削減や上場廃止に向けたキャッシュアウトの準備、敵対的買収対策にも利用できます。自己株式制度のメリット・デメリットを踏まえ、利用を検討していくことが重要と言えるでしょう。
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