公取委が20年度の違反事件を公表、課徴金制度について
2021/06/04 独禁法対応, 独占禁止法, その他
はじめに
公正取引委員会は先月26日、2020年度の独禁法違反事件の処理状況を公表しました。課徴金の総額は約43億円と前年度比で大幅に減少していたとのことです。今回は独禁法が規定する課徴金制度を見直していきます。
事案の概要
公取委の発表によりますと、令和元年度の課徴金総額は約692億円(対象事業者数37名)であったのに対し、昨年令和2年度は総額が約43億円(対象事業者数4名)と大幅に減少していたとされます。
一方で排除措置命令、課徴金納付命令などの法的措置にまでいたった件数は令和元年度が13件であったのに対し、令和2年度は15件と若干増加しております。2018年から導入された確約手続きの利用件数は令和元年度が2件であったの対し、令和2年度は6件と増加し、課徴金額の大幅減少につながったものと見られます。
刑事告発にいたった事件は令和2年度では医薬品入札談合事件1件であったとのことです。
課徴金制度とは
課徴金とは、カルテルや談合などの独禁法違反行為防止という行政目的を達成するために違反事業者に課す金銭的不利益を言うとされております。
一定の独禁法違反行為に対し公取委は違反事業者に対して課徴金を国庫に納付することを命じることとなります。現在課徴金納付命令の対象となる違反行為はカルテル、談合などの不当な取引制限(7条の2)、排除型私的独占(7条の9第2項)、支配型私的独占(7条の9第1項)、不公正な取引方法では共同の取引拒絶(20条の2)、差別対価(20条の3)、不当廉売(20条の4)、再販売価格の拘束(20条の5)、優越的地位の濫用(20条の6)となっております。
課徴金は罰金とは異なり違法行為による不当な利益の剥奪という意味合いがあることから売上に一定の算定率を乗じることで金額が出されます。算定率は不当な取引制限、支配型私的独占で10%、排除型私的独占で6%、優越的地位の濫用で1%、それ以外の不公正な取引方法で3%となっております。
課徴金減免制度
独禁法には課徴金減免制度(リーニエンシー制度)が存在します。
これは違反業者が公取委に自主的に報告した場合、その順位や協力度合いに応じて課徴金が減免される制度です。
減免率は公取委の調査開始前の1位で全額免除、2位で20%、3~5位で10%、6位以下で5%、調査開始後は最大3社まで10%、それ以下は5%となっております。協力度合いによる減算率は調査開始前で最大40%、調査開始後で最大20%となっております。
減免手続きの申請は公取委が公表している様式に則った報告書を電子メールで送付し順位が仮確定し、報告書(様式2号)と資料を郵送または持参することとなります。
確約手続き
確約手続きとは、独禁法違反の疑いがある場合に、公取委から違反の疑いの概要とともに確約認定申請ができる旨が通知され、事業者が利用したいと考える場合に確約契約を作成し申請することによって、最終的に排除措置命令や課徴金納付命令を免れるという制度です。
利用する場合は通知から60日以内に確約計画を作成・申請し、それが違反行為を排除するに十分なものであり、確実に実施されると見込まれると公取委が認めた場合に認定されます。
認定されると排除措置などの処分は回避されます。なお認定されず却下されたり、確約契約の内容を実施していないことを理由に認定が取り消された場合は通常の手続きに移行することとなります。
コメント
公取委の発表によりますと、昨年度は違反事件数自体は令和元年度と大差ないものの、課徴金額は大幅に減少しております。新たに導入された確約手続きや減免制度の利用が増加したと見ることもできますが、令和元年度は5件の価格カルテル事件や2件の入札談合事件により高額な課徴金事例が集中した年とも言えます。
課徴金は上でも触れたように一定の期間における売上に算定率を乗じて計算されることから通常の罰金等に比べ非常に高額になることが多く、現在の最高額は約270億円とされております(ストーカ炉入札談合事件)。この課徴金によって倒産にいたった例もあります。
現在新型コロナウイルスの影響により業績が落ちている企業も少なくない状況となっておりますが、今一度談合や価格カルテルなどが行われていないかを確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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