日本学生支援機構に返還命令、民法の保証人について
2021/08/02 契約法務, 民法・商法, その他
はじめに
日本学生支援機構の奨学金制度で保証人になった北海道の男女2人が、本来半額の支払い義務しかないことを伝えられず、全額の支払いをしていたとして、過払い分の返還を求めた訴訟で札幌地裁は5月13日に約140万円の返還を命じていたことがわかりました。
慰謝料分は棄却されたとのことです。今回は民法の保証人制度について見直していきます。
事案の概要
朝日新聞の報道などによりますと、小樽市の元高校教諭の男性(75)は教え子の保証人として同機構から約94万円を請求され、約67万円を支払い、また札幌市の女性(68)の亡くなった夫は生前においの保証人として同機構から約242万円請求され全額を支払ったとされます。
いずれも奨学金を借りた本人の父が連帯保証人となっていたものの、既に死亡していたり債務整理中で支払い能力がなかったとのことです。
他に保証人がいる場合は民法上全額の請求はできないにもかかわらず全額請求してきたのは違法であるとして過払い分の返還や慰謝料の支払いを求め札幌地裁に提訴されておりました。
民法上の保証とは
民法446条1項によりますと、保証人は主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負うとされております。主たる債務者が弁済をしないときに保証人となった者が代わりに履行するということです。
この保証契約は主たる債務者に委託されて締結する場合もありますが、基本的には債権者と保証人で締結するもので、主たる債務とは独立した契約と言えます。これは主たる債務者の意思に反しても締結できます。
ただし保証契約は書面で行わなければ効力を生じないとされております(同2項)。この書面は電磁的記録も含まれます(同3項)。
保証の範囲と抗弁
保証人が負う保証債務の範囲は、主たる債務およびそれに関する利息、違約金、損害賠償その他主たる債務に従たるすべてのものを含むとされております(447条1項)。そのため主たる債務に関する契約が解除された場合の原状回復義務やその後の損害賠償義務にもおよぶ場合があるとされております(最判昭和40年6月30日等)。
しかし上でも述べたように保証人の債務はあくまで主たる債務者が履行しない場合の補助的なものと言えます。そこで保証人には催告の抗弁権と検索の抗弁権が認められております(452条、453条)。
催告の抗弁とは、債権者が保証人に履行を請求してきた場合、まずは主たる債務者に催告すべきと反論するというものです。そして検索の抗弁は主たる債務者に資力があり、執行が容易であると証明した場合、そちらから執行しなければならないというものです。
そして保証人が複数存在する場合は、保証人の負担する債務は主たる債務をその人数で分割したものとなります(456条、427条)。これを分別の利益と呼びます。
連帯の特約
保証契約を締結する際に、連帯の特約を盛り込むことが多いと言えます。いわゆる連帯保証です。
連帯保証とは保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担するというもので、上で述べた催告の抗弁や検索の抗弁は排除され、また分別の利益もなくなることから、連帯保証人に対して債権者は主たる債務者に先に支払いを求める必要もなく、全額を保証人に請求することが可能です。連帯保証人は保証人というより連帯債務者に近く、連帯債務の規定が準用されております(458条)。
コメント
本件で日本学生支援機構が学生に貸与した奨学金については、原告らの他にそれぞれ学生本人の父が連帯保証人となっていたとされます。そこで保証人が複数の場合に生じる分別の利益が認められ、札幌地裁は半額を超える部分については不当利得として返還を命じました。
学生の父は連帯保証人ですが、原告らは通常の保証であったと考えられます。この件に関する司法判断は初とのことです。
以上のように民法上の保証は通常の保証と連帯保証でかなり性質が異なります。債権者の立場からは当然連帯保証のほうが有利となります。なお主たる債務が商行為により生じている場合は商法が適用され当然に連帯保証となります。保証契約を締結する際にはこれらの点に注意して契約書を作成していくことが重要と言えるでしょう。
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