県道でのトラック横転事故で県に賠償命令、国家賠償の要件について
2021/08/26 訴訟対応, 民事訴訟法, その他
はじめに
県道の水たまりに車輪を取られトラックが横転し、運転手が死亡した事故を巡って県に損害賠償が求められていた訴訟で24日、神戸地裁は2060万円の支払を命じていたことがわかりました。運転手側にも2割の過失があったとのことです。
今回は国家賠償法2条の要件について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、2014年、兵庫県加東市内の県道でトラックが道路にできた水たまりに車輪を取られ横転し、運転していた同市の男性(当時77)が亡くなったとされます。水たまりは長さ約35メートル、幅約3メートル、深さ約15センチで県道の排水溝に落ち葉がたまって雨水の排水が妨げられできたものとのことです。
遺族に共済金を支払った全国共済農業協同組合連合会(東京)が遺族に代わって賠償請求権を取得し、兵庫県に対し賠償を求め提訴しておりました。なお亡くなった運転手当時シートベルトはしていなかったとされます。
公の営造物に関する賠償請求権
国家賠償法2条1項によりますと、「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害が生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる」としております。
道路や河川などに何らかの不備があり、それによって損害を受けた場合は国等に損害賠償請求ができるとする規定です。元来民法717条の工作物責任によっても賠償請求することが可能ですが、同条よりも対象が広く、占有者の免責条項が無く、また独自の費用負担規定が置かれているといった特色があります。
以下具体的に国賠請求の要件を見ていきます。
国賠2条に関する具体的要件
国賠請求の対象となる「公の営造物」とは一般的に、国または公共団体によって公の目的に供される人的・物的施設の総体を言うとされております。具体的には道路、河川、湾岸、上下水道、官公庁舎、学校など有体物が該当することになりますが、不動産だけでなく動産も含まれると言われております。これらのものについて国や公共団体に法律上の管理権限や所有権等がなくても事実上管理していれば該当するとされます。
そして「設置又は管理に瑕疵」があるとは、営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態を言うとされております(最判昭和45年8月20日)。そして通常有すべき安全性の有無については営造物の構造、用法、場所的環境、利用状況等の事情を総合考慮して個別的に判断するとされます(最判昭和53年7月4日)。
道路に関する設置・管理の瑕疵
道路に関する営造物の瑕疵については、海沿いの山肌の中腹を切り取って設置した道路で、トラックの助手席に落石が直撃し死亡事故が発生したという著名な事例(高知落石事件、最判昭和45年8月20日)で、国または公共団体の責任は無過失責任であること、また財政的理由は免責事由とはならない点を示しました。
道路に存在している危険を除去するために、防護柵などの措置を講ずる必要があるとしても、それに多額の予算が必要となる場合があります。自治体によっては財政的にそのような工事が困難な場合もあり得ますが、判例はそういった財政的な理由は責任を免れる事由とはならないとしております。
コメント
本件で問題となった県道は地形などの要因から常時落ち葉や枯れ木が堆積しやすく、排水溝の排水が妨げられやすい構造となっていたとされます。神戸地裁は、県には掃除するなどして道路の安全を確保する必要があったとし責任を認めました。長さ35メートルに渡って深さ15センチの水たまりが生じる道路には通常有すべき安全性が認められなかったものと考えられます。
以上のように国や自治体には道路や河川といった公共物を安全に管理する義務があります。これに不備があり、それによって民間に損害が発生した場合はその賠償をする責任が生じることを国家賠償法が規定しております。なお私道や民間所有の場合は民法によることとなります。どのような場合に、誰に対して責任を追求することができるかを予め把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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