Appleが課金ルール見直し、アプリ課金と独禁法について
2021/09/08 独禁法対応, 独占禁止法, その他
はじめに
米Apple社がスマホ「iphone」でのアプリ使用の際の課金ルールを見直すと発表しました。音楽や書籍等に関してはApple社に手数料を支払わなくてよいとのことです。今回はスマホアプリの手数料と独禁法について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、iphoneのアプリはApple社の審査を受けた上でAppStoreで公開され、ユーザーはそこからダウンロードして使用することとなります。ユーザーがアプリに課金する際には、その売上の30%が手数料としてAppleに支払われているとされます。アプリ開発事業者のサイト等で課金(外部決済)させるようアプリ内でリンクを付ける行為(アウトリンク)は同社ガイドラインで禁止されているとされ、手数料の回避は困難となっておりました。これに対し公取委は、このような手数料を徴収するシステムは独禁法に抵触する可能性があるとし2016年から調査を開始し、同社と協議を重ねてきたとのことです。今回同社は音楽配信や書籍、動画配信に関しては外部決済のためのアウトリンクを解禁するとされます。
拘束条件付取引
公取委の発表では、本件で独禁法上問題となったのは拘束条件付取引と私的独占とのことです。拘束条件付取引とは、独禁法が禁止する不公正な取引方法の一種であり、相手方とその取引の相手方との取引、その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて当該相手方と取引することを言うとされます(19条、2条9項6号二、一般指定12項)。メーカーが流通業者に対して、販売地域や販売先、販売方法などを制限して販売させるといった行為が典型例と言えます。流通業者等にその取引相手である小売業者に販売価格を維持させる条件を付ける場合も同様です。なお販売に際して顧客への説明や品質管理、陳列方法などに制限を設けることは、合理的な理由がある場合は適法となります(最判平成10年12月18日)。
私的独占
私的独占とは、事業者が単独、または他の事業者と結合、通謀し、その他いかなる方法をもってするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、または支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することを言うとされます(2条5項)。典型的には差別対価、不当廉売、排他条件付取引といったそれ自体が独禁法違反となる行為が挙げられますが、それ以外でも濫用的商標出願などあらゆる行為が該当し得ると言えます。また他の事業者の株式を取得したり、役員を兼任するといった支配的行為も該当します。これらの行為により市場における価格や品質、数量の支配力を形成するようになると違法となるということです。
優越的地位の濫用
上記以外にも本件で問題となりうる行為として優越的地位の濫用が挙げられます。実際に米国では反トラスト法の優越的地位の濫用が問題となっていると言われております。優越的地位の濫用とは、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、不当に商品等を購入させたり、金銭や役務、経済上の利益を提供させたり、商品の受取拒否や代金減額、返品などを行う行為を言います(19条、2条9項5号イ~ハ)。大規模量販店が納入業者に従業員を無償で派遣させて、棚卸しなどを行わせるといった行為が典型例です。優越的地位に該当するかは、取引依存度、市場における地位、相手方の取引先変更の可能性、その他自社と取引する必要性などを総合的に考慮されます。
コメント
本件で公取委は、アプリストアに使用の対価を手数料として徴収すること自体は、ただちに独禁法上問題にはならないとしております。一方で外部決済のためのアウトリンクを禁止する措置は拘束条件付取引や私的独占に該当しうるとしております。30%の手数料を支払う以外にiphone上でアプリ運営を行う術が無く、また手数料分はアプリ市場での競争が阻害される可能性があると考えられます。Apple社は音楽、動画、書籍配信についてはアウトリンクを解禁しましたが、手数料収入の7割を占めるゲームアプリに関しては今後も制限を継続していくとされます。以上のように市場で大きな影響力をもつ巨大企業に関しては、取引相手に対して行うあらゆる制限行為が独禁法上問題となりうると言えます。上位企業だけでなく、取引相手である零細企業の側もこれらの法規制について熟知しておくことが重要と言えるでしょう。
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