過労死訴訟で遺族側が申し立て、民事訴訟の忌避制度について
2021/10/15 労務法務, 訴訟対応, 労働法全般, 民事訴訟法, 広告
はじめに
自殺した広告代理店社員の遺族が労災認定を求めている訴訟で、原告側が裁判官の交代を求める申し立てを行っていたことがわかりました。証人の申し立てを却下したとのことです。今回は民事訴訟法の除斥、忌避、回避の制度について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、大阪市内の広告代理店に勤務していた男性(当時57)は長時間労働や個人のブログを上司に削除するよう命じられたことなどを苦にうつ病を発症し、2010年に自殺したとされます。労基署はうつ病発症と業務との間に因果関係はないとして労災を認めなかったことから、遺族が国に対し取り消しを求め提訴していたとのことです。
この訴訟で遺族側が当時の上司の証人尋問を申し立てたところ裁判所はこれを却下したとされ、裁判の公正を妨げているとして裁判官の交代を求める申し立てを行ったとされます。
除斥、忌避、回避とは
民事訴訟では、一定の要件のもとに裁判官が交代することがあります。民事訴訟法23条では、訴訟の当事者が裁判官の配偶者であったり、4親等内の血族、3親等内の姻族、同居の親族、後見人等である場合などでは当該裁判官は排除されます。これを除斥と言います。
これら除斥原因が無い場合でも、裁判官について裁判の公正を妨げるべき事情があるときは、当事者は当該裁判官の排除を申し立てることができます(24条)。これを忌避と言います。
この裁判の公正を妨げる事情がある場合に、当事者の申し立てではなく裁判官自ら職務執行から外れることが可能です(民訴規則12条)。これを回避と言います。
除斥等の裁判手続き
除斥または忌避の申し立てがなされた場合は、その裁判官が地裁の裁判官である場合はその裁判所で、簡裁の裁判官である場合はその簡裁の所在地を管轄する地裁が決定で裁判を行います(25条1項)。この裁判は合議体で行なわれ(同2項)、その対象となっている裁判官は関与することができません(同3項)。
この申し立てが決定で退けられた場合は即時抗告を行うことができます(同5項)。また除斥、忌避の申し立てがあった場合はその決定が確定するまで訴訟手続は、急速を要する場合を除いて停止することとなります(26条)。
なお明らかに訴訟遅延を目的とした忌避申し立ては忌避権の濫用として当該裁判官により簡易却下ができるとされます(札幌高裁昭和51年11月12日)。
忌避の原因
上記のように裁判の公正を妨げるべき事由がある場合には裁判官の忌避を申し立てることができます。それでは公正を妨げるべき事由とはどのような場合をいうのでしょうか。
一般には裁判官が事件と関連の強い別の事件の訴訟代理人となったことがある場合、裁判官と一方当事者と内縁関係があった場合、退官間近の裁判官の再就職先の法律事務所の弁護士が代理人となっている場合、裁判官が株主となっている会社が当事者である場合などが挙げられます。
逆に訴訟指揮に不満がある場合、裁判官の性格や言動などに不信感があるといった場合には該当しないと言われております。また当事者が裁判官の配偶者の親であった場合に忌避を否定した最高裁判例も存在します(最判昭和30年1月28日)。
コメント
本件で自殺した広告代理店の社員の遺族が労災認定を求める訴訟で、当時の上司を証人尋問するよう申し立てたところ裁判所が却下したとされます。これに対し裁判の公正を妨げるとして忌避の申し立てをしたとのことです。証人尋問など証拠の申し立てに対し、採用するか否かは裁判官の裁量に委ねられていることから忌避は認められにくいのではないかと考えられます。
以上のように民事訴訟では一定の場合、裁判官の交代を申し立てることができます。しかし忌避の申し立ては訴訟遅延目的の場合は簡易却下ができ、またそれ以外でも認められることは稀と言われております。
どのような場合に交代が認められるのか、また逆に認められないのかをある程度把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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