積水ハウス「地面師事件」で代表訴訟、経営判断原則について
2021/10/26 商事法務, 総会対応, コンプライアンス, 会社法
はじめに
積水ハウスが2017年の土地取引での詐欺事件で特別損失を計上したことをめぐり、株主が当時の社長であった阿部前会長らに対し会社への賠償を求めた株主代表訴訟で22日、口頭弁論が開かれました。被告側は注意義務違反を否定しているとのことです。今回は取締役の責任と経営判断原則について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、積水ハウスは2017年、東京都品川区西五反田の土地約600坪の購入に際し土地所有者やその代理人に成りすました、いわゆる地面師グループに60億円あまりを騙し取られたとされます。地面師グループはパスポートや印鑑証明書などを偽造し、あたかも所有者であるかのように振る舞っており、積水ハウスは手付金14億円を支払って仮登記を行ったとのことです。しかしその後、真の所有者から売買契約はしていない旨の内容証明郵便が届くも、同業者による妨害工作と判断して残りの49億円を支払ったとされます。なお所有者を名乗る者は土地の権利書も所持していなかったとのことです。
取締役の責任
取締役は会社とは委任関係にあり、会社に対しては善管注意義務を負っております(会社法330条、民法644条)。これに違反して会社に損害を生じさせた場合、任務懈怠責任としてその損害を賠償する責任も負うこととなります(423条1項)。この責任は本来会社自身が取締役に対して追求するものですが、役員間の仲間意識などから適切に追求がなされないということも考えられます。そこで株主(公開会社では6ヶ月前から株式を保有)は会社に対し、責任追求を求めることができます(847条1項)。会社が60日以内に提訴しない場合は株主が会社に代わり提訴することができるとされます。これを株主代表訴訟と呼びます。このように取締役は善良な注意義務をもって業務判断を行う必要があります。
経営判断の原則
取締役は日々会社の業務執行を行いますが、時には難しい判断を強いられることもありえます。その結果会社に損害が生じてしまった場合、常に任務懈怠として会社に対し賠償の責任を負わされたのでは取締役の判断が萎縮してしまい、果敢な挑戦もできなくなってしまいます。そこで、(1)経営判断を下すまでの情報収集・分析に不注意な点がなかったこと、(2)判断内容自体に不合理な点がなかったことを要件として取締役に注意義務違反はなかったものとする理論が存在します。これを経営判断の原則と言います。この経営判断原則は取締役の善管注意義務違反や忠実義務違反が問題となっている場合に適用されますが、法令や定款に違反する行為や、他の取締役や従業員の違法行為や任務懈怠を看過した場合などには適用されないと言われております。
経営判断原則に関する裁判例
経営判断の原則は、情報収集と分析、それに基づく判断に不合理な点が無いことが要件となっておりますが、その判断には取締役によって当該行為がなされた当時における会社の状況および会社を取り巻く社会、経済、文化等の情勢において当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき治験および経験を基準とするとされております(東京地裁平成16年9月28日)。またグループ会社を完全子会社化するにあたって、1株あたり1万円程度と評価されたグループ会社の株式を株主から5万円で買い取った事例で最高裁は、事業再編計画の策定には将来予測にわたる経営上の専門的判断にゆだねられており、非上場会社の株式を円滑に取得する手段としても、また事業再編による企業価値の増加が期待できる点からも著しく不合理ではないとしたものがあります(最判平成22年7月15日)。
コメント
本件で積水ハウスと所有者を名乗る者との取引には、所有者の体調不良を理由に現地の内覧ができなかったことや、仮登記後に真の所有者を名乗る者からの文書、権利書を持参しなかったことなど当初から様々な不審点があり、事業部内でもおかしいとの声が上がっていたとされます。しかし本件土地はかねてより多くの不動産業者が注目していた一等地で、同社もなんとしても入手したいとの思いから、本来必要な稟議書の取締役への回付を省略して社長の決済を得ていたなどとされます。これらの点に著しく不合理な点は無かったかが今後の争点となるものと思われます。
以上のように取締役は会社に対しては重い責任を負っておりますが、その業界における経営者として著しく不合理な判断を行っていなければ責任はないとされます。今一度この点を確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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