オーケーが関西スーパー統合に仮処分申立、株式交換差止について
2021/11/09 商事法務, 総会対応, 訴訟対応, 会社法, 民事訴訟法
はじめに
先日も取り上げた関西スーパーとH2Oの経営統合決議について関東で食品スーパーを展開する「オーケー」(横浜市)が神戸地裁に差止の仮処分申立を行う方針であることがわかりました。総会当日の投票取扱に疑義があるとのことです。今回は株式交換の差止手続きについて見ていきます。
事案の概要
関西スーパーの経営統合を巡って、かねてからH2Oとオーケーで争われておりましたが、先月29日に関西スーパーの臨時株主総会でH2Oとの経営統合案が可決承認されました。総会検査役の報告によりますと、最初の集計では賛成が65.71%と特別決議に必要な3分の2に届いていなかったところ、株主の1人が予め賛成の議決権を送付していたことから当日は白票を投票した旨申し出たことから賛成票に切り替え、それにより賛成比率66.68%となり可決されたとのことです。これに対しオーケーは、投票締め切り後に特定の株主だけ投票内容を変えるのは問題があるとして裁判所に差止の仮処分を申し立てる意向を示しました。
株式交換差止手続き
株式交換に法令または定款違反がある場合、それにより株主が不利益を受けるおそれがあるときは差止請求をすることができます(会社法784条の2、796条の2)。これは会社法の平成26年改正によって導入された制度です。株式交換承認決議に瑕疵がある場合や、備え置き書類の不備、債権者異議手続きの不備、株式交換契約の内容の瑕疵、略式・簡易手続きの瑕疵、株式買取請求手続きの不備といった会社法違反などがある場合に申立ができます。株式交換差止請求を行う場合、実務上は差止請求権を被保全権利として民事保全法による仮処分申立が行なわれることが一般的です。
略式・簡易株式交換の場合
株式交換などのM&A手続きには略式または簡易手続きによることができる場合があります。略式手続きとは、株式交換の当事会社の一方が他方の特別支配会社である場合に被支配会社で特別決議による承認決議を省略できるというものです。特別支配会社とは議決権の90%以上を保有している会社です。このような場合は可決されることが確実であり実際に決議を取る意味が乏しいからです。この略式手続きで株式交換がなされた場合、差止事由は法令・定款違反に加え、株式交換の条件が著しく不当である場合も含まれます。通常の場合は議決権の3分の2の株主が賛成しておりますが、略式の場合は決議が行なわれていないことから、このような場合も差止ができることとなっております。なお簡易株式交換の場合は差止請求はできないこととなっております。簡易株式交換は、対価が純資産額の20%以下の場合であることから株主への影響が小さいことが理由です。
株式交換無効の訴え
株式交換差止請求は、株式交換の効力発生前に行なわれますが、効力発生後は無効の訴えを提起することができます(828条1項11号)。無効事由については条文に規定されておりませんが、差止と同様に、各種手続きの不備や瑕疵といった法令違反が該当します。また差止の仮処分を無視した場合も無効事由に該当すると考えられております。提訴期間は効力発生日から6ヶ月以内で、当事会社の株主、取締役、執行役、監査役、清算人が提訴権者となっております。当事会社の双方が被告となり、管轄はそれらの会社の本店所在地の地方裁判所となります(835条1項)。
コメント
本件で問題となっているのは、先日行なわれた関西スーパーの臨時株主総会での株式交換承認決議についてです。当初は賛成比率が特別決議の可決にわずかに足りなかったものの、特定の株主からの申し出で白票を賛成票に変更し、それにより賛成比率が可決に達したとのことです。書面や電子投票により予め投票していても、総会当日に出席して改めて投票することは可能とされますが、本件では投票締切後の申し出であったことから問題視されております。今後の裁判所の判断が注目されます。以上のように株式交換などの組織再編行為は厳格な手続きが規定されており、それらの手続きに不備があった場合には差止請求や無効の訴えが提起できることとなっております。後日紛争が予想される場合には総会検査役を選任するなど予め対処を準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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