今年1月から導入、改正雇用保険法上の「マルチジョブホルダー」とは
2022/01/11 労務法務
はじめに
令和4年1月1日から改正雇用保険法が施行され、マルチジョブホルダー制度がスタートしました。65歳以上の労働者に雇用保険の被保険者となる機会が増えることとなります。今回はマルチジョブホルダー制度の概要を見ていきます。
改正の経緯
近年、少子高齢化が急激に加速し労働者人口の減少が叫ばれております。それを受け、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある誰もが年齢にかかわりなくその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境整備が図られてきております。昨年4月から施行された高年齢者雇用安定法でも70歳までの定年引き上げや定年制の廃止、継続雇用制度の導入など70歳までの就業機会確保が努力義務として事業者に求められております。そして雇用保険の面でも65歳以上の労働者を一定の要件のもと被保険者とし、失業時のセーフティネットの整備を図るため雇用保険法が改正されております。
マルチジョブホルダー制度とは
従来の雇用保険制度では、主たる事業所での労働条件が週所定労働時間20時間以上で、かつ31日以上の雇用見込み等の適用要件を満たす場合に雇用保険が適用されてきました。今回新しく導入されるマルチジョブホルダー制度では複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が合算して要件を満たす場合に被保険者となることが可能となります。マルチジョブホルダー制度での被保険者は「マルチ高年齢被保険者」と呼ばれ、失業した場合には高年齢求職者給付金を受給することができます。これは複数の事業所のうち1つの事業所のみ離職した場合でも適用されます。このように65歳以上の労働者も失業保険を受給しながら求職活動を行うことが可能となります。
マルチジョブホルダー制度の適用対象者
厚労省の資料によりますと、マルチジョブホルダー制度の適用対象者であるマルチ高年齢被保険者となるためには次の要件を全て満たす必要があります。(1)複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること、(2)2つの事業者の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること(1つの事業所で5時間以上20時間未満)、(3)2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であることとされます。加入後の取り扱いは通常の雇用保険の被保険者と同様で、任意脱退はできないとされております。また加入後に別の事業所で雇用された場合、上記要件を満たさなくなった場合を除いて、加入する事業所を任意に切り替えることはできません。
手続きの流れ
通常、雇用保険の手続きは事業主側が行うこととなりますが、マルチジョブホルダー制度では適用を希望する労働者側が手続きを行うこととなります。適用を希望する労働者は、まず勤務している2社(3社以上で勤務している場合はそのうちの2社を選択)から資格取得に関する書類をもらい、必要書類に本人および事業主が記載して本人がハローワークに申し出ます。申し出を受けたハローワークは内容を確認し本人および事業所2社に通知することとなります。マルチ高年齢被保険者の資格は申し出の日に取得することとなります。そのため申し出日よりも遡って被保険者となることはできないとされております。雇用保険料もその日から納付義務が発生します。なお被保険者の要件を満たさなくなった場合はその日の翌日から起算して10日以内に届け出る必要があります。
事業主の注意点
上記のとおりマルチジョブホルダー制度での手続きは原則的に労働者側が行います。しかし上記のとおり、この制度の適用を労働者が望む場合、事業主は必要書類を労働者に交付する必要があります。具体的には労働者と共に記載する「雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届」とそれに添付する確認資料です。確認資料は賃金台帳、出勤簿、労働者名簿、雇用契約書、労働条件通知書、雇入通知書などとされております。事業主からのこれらの協力が得られない場合はハローワークから事業主に対して確認を行うこととなっており、労働者がマルチジョブホルダー制度の申し出を行ったことを理由として解雇や雇止め、労働条件の不利益変更など不利益な取り扱いを行うことは禁止されております。
コメント
以上のように今月から65歳以上の労働者を対象としてマルチジョブホルダー制度が開始しております。複数の会社で勤務する65歳以上の労働者は希望すれば雇用保険の被保険者となることが可能です。事業主側が能動的に手続きをする必要はありませんが、労働者が希望する場合は上記の書面を用意する必要があり、またハローワークで被保険者と認められた場合は申し出日から雇用保険料の支払いが必要となってきます。近年日本の総人口に占める65歳以上の割合は21%を超えており、今後ますます少子高齢化は進むと予想されております。65歳以上の労働者の雇用もそれに伴って増加していくことが見込まれます。高年齢者に関する労働関係法令も順次整備されていくものと思われます。今のうちから法制度や手続き、必要な書面などを確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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