京王電鉄バスが1億円に減資へ、経営難の大手企業で資本金減少の動き
2022/01/21 商事法務, 総会対応, 会社法
はじめに
京王電鉄バスは1月31日付で資本金を45億円減少させ、1億円とすると発表しました。減額分は資本剰余金となるとのことです。今回は会社法上の資本金減少について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、京王電鉄バスは新型コロナウイルス感染拡大によって売上が減少するなど、厳しい事業環境が続いているとされ、資本金を減少させて税制上の優遇措置を受け、税負担を軽減させる狙いがあるものとされます。京王電鉄バスの現在の資本金は46億円となっており、45億円減少させて1億円とする予定です。同社はさらに、今年4月1日を効力発生日として京王バス小金井を吸収合併する予定とされ、この合併による新株発行や資本金の増加はないとしております。資本金減少に関する公告は昨年12月21日付で行われており、合併に関しても今月18日付で行われております。
資本金の額と会社への影響
資本金とは、会社設立や募集株式発行の際に株主となる者が会社に出資した額を基礎として設定される金額を言います。会社設立の際に株主となる者が払いこんだ額は、半分は資本金に、残りの半分は資本準備金に計上することもできます。株主への剰余金配当は、この資本金を純資産が上回っている範囲でしかできず、会社財産の流出を抑えるための安全弁のような役割を担っております。資本金はその額によって法制上の扱いが変わり、例えば資本金の額が5億円以上になると会社は「大会社」となり会計監査人の設置が義務付けられます(会社法2条6号)。そして税制法上も資本金が1億円以下の会社は優遇税制を受けることができます。このように資本金の額は会社運営に様々な影響を与えることとなります。
資本金減少の手続き
資本金を減少するにはまず、原則として株主総会の特別決議が必要となります(447条、309条2項9号)。例外的に定時株主総会で欠損填補をする場合には普通決議で良いとされ、また募集株式発行と同時に資本金が増えた範囲で減少させる場合は取締役会決議で良いとされております(447条3項)。資本金減少をする場合は例外無く債権者異議手続きが必要です。効力発生日の1ヶ月前までに官報での公告と知れている債権者への催告をする必要があります。官報と日刊新聞または電子公告を行うことによって個別の催告は省略することができます(449条4項)。その後効力発生日に資本金が減少し、その後登記を行います。なお登録免許税は3万円となります。
税法上の優遇税制
資本金を1億円以下にすることによって税法上は中小企業となり、優遇税制を受けることができます。資本金が1億を超える場合、法人税率は23.20%ですが、資本金が1億円以下の場合、年間800万円までの所得については15%の軽減税率が適用されます。そして年間800万円まで交際費等を損金に算入することができ、また過去10年以内の繰越欠損金が当期所得を上回る場合は当期所得を0とすることができるとされます。それ以外にも固定資産購入の際に通常の減価償却を行わず、年間300万円までの範囲で全額損金に算入することができたり、外形標準課税が適用除外となるなど様々な優遇を受けることが可能とされます。企業としては、こうした税負担の軽減により、手元資金を確保できるメリットがあります。
コメント
本件で京王電鉄バスは今月末を効力発生日として資本金を45億円減少させる予定です。会社法上の大会社ではなくなり、税法上も中小企業となります。これにより会計監査人の設置義務がなくなり、また税法上も優遇税制を受けることができる見通しです。また今年4月1日には京王バス小金井も吸収合併する予定とされ、グループ再編が進むこととなります。以上のように資本金はそれ自体が会社の規模を表すものではありませんが、5億円を超える場合は大会社として扱われ法定監査義務が生じ、また剰余金配当がやりにくくなるなど経営環境が悪化した際には重荷になることが多いと言えます。
近年、旅行業界最大手のJTBをはじめ、東証一部上場の大企業の中にも資本金を減少させて自ら中小企業化する会社が増えております。資本金の意味や役割、その額による扱いなどを踏まえて、今一度自社に適した資本金の額を検討していくことが重要と言えるでしょう。
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