総会屋に観劇券供与で書類送検、会社法の利益供与とは
2022/03/16 総会対応, コンプライアンス, 会社法
はじめに
愛知県警が株主総会の円滑な進行の見返りとして観劇券を譲渡していたとして、株式会社御園座(名古屋市/劇場運営事業)の社長と同社課長を会社法違反の容疑で書類送検していたことがわかりました。受け取った男性は既に逮捕されているとのことです。今回は会社法が禁止する利益供与について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、2019年6月に名古屋市内で開催された御園座の株主総会で議事が円滑に進行したことの謝礼として三重県四日市市の無職、岩間昇龍被告(70)に観劇券2枚を供与したとされます。既に会社法違反の疑いで起訴されている岩間被告は約40年にわたり総会屋として活動しており、同社からは少なくとも10年以上利益を受けていたと見られているとのことです。この件について同社は、岩間被告が総会屋との認識はなく、総会の円滑な進行を依頼したことはないとしており、また観劇券についても他の株主にも配布することがある株主優待券であるとしております。
利益供与とは
会社法120条1項によりますと、株式会社は何人に対しても、株主の権利の行使に関し、財産上の利益を供与してはならないとしております。いわゆる総会屋が株主総会等で妨害活動を行うことを防ぐ目的で会社が金品等を提供する行為が典型例と言えます。この規定は会社財産の浪費と総会屋へのインセンティブの剥奪、そして会社経営の健全化を図ることを目的としているとされます。違反した場合には罰則として3年以下の懲役または300万円以下の罰金となっており、その対象は会社役員だけでなく支配人や支配人も含まれております(970条1項)。また受け取った側や要求した者も利益受供与罪として同様に罰則が適用されます(同2項、3項)。その際威迫を伴った場合は5年以下の懲役、500万円以下の罰金に過重されます(同4項)。
利益供与の要件
会社法で禁止される利益供与に該当するためには「株主の権利の行使に関し」て行われる必要があります。具体的には株主総会での議決権の行使、株主提案、質問権、株式買取請求権などあらゆる株主権の行使または不行使が含まれます。そして提供する「財産上の利益」は金銭や物品だけでなく債務免除などの利益も含まれますが、刑法の贈賄罪のように人の欲求を満たすあらゆるものが含まれるわけではないとされます。この財産上の利益はあくまで会社または子会社の計算において提供される必要があり、役員個人の財産から提供する場合は該当しません。そして特定の株主に対して無償で、または著しく少ない対価で財産上の利益を提供した場合は利益供与であると推定されることとなります(120条2項)。なお社会通念上許容される範囲であれば株主優待は利益供与に当たらないとされます(高知地裁昭和62年9月30日)。
利益供与に関する責任
利益供与を受けた者は会社に対してそれを返還する義務を負います(120条3項)。これは善意・悪意を問わないとされます。そして利益供与に関与した役員等は連帯してその利益相当額を会社に支払う義務を負うこととなります(同4項)。その中でも利益供与を行った取締役・執行役は無過失責任となりますが、それ以外の役員等は注意を怠らなかったことを証明した場合は責任が免除されます(同4項但し書き)。これらの責任は株主代表訴訟の対象となっており、会社がこれらの者に責任追求の訴えを提起しない場合は株主が代わって提起することができます(847条1項、3項)。なおこれらの責任は総株主の同意があれば免除されることとなっております(120条5項)。
コメント
本件で御園座は総会屋とされる男に株主総会での議事が円滑に進んだ謝礼として観劇券を提供していた疑いが持たれております。これが事実であった場合、株主総会での質問権など株主としての権利の行使に関して、観劇券という財産上の利益を提供したこととなり、利益供与が推定されることとなります。同社は株主優待であるとしておりますが、10年以上も特定の株主に提供してきていることから社会通念上許容されるものとは認められにくいと考えられます。以上のように会社法では株主の権利行使に関して会社が財産上の利益を提供することを禁止しております。これには会社への賠償義務だけでなく厳しい罰則も規定されております。円滑な事業や総会運営のため長年の慣例として行われていることであっても違法であることに変わりは無いと言えます。自社内で今一度周知しておくことが重要と言えるでしょう。
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