ブッキングドットコムが公取委に改善計画提出、拘束条件付取引とは
2022/03/22 コンプライアンス, 独占禁止法
はじめに
大手旅行予約サイト「ブッキングドットコム」が契約先の宿泊施設に対し、同社サイトが最安値になるよう求めていた問題で公取委は16日、提出された改善計画を認定していたことがわかりました。これにより行政処分は出さない方針とのことです。今回は独禁法の拘束条件付取引を見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ブッキングドットコムでは宿泊施設との契約の際に、自社サイトに掲載する宿泊料金を競合他社のサイトと同額かまたはそれより安くする条項(同等性条項)を盛り込んでいたとされます。このような同等性条項は独禁法が禁止する拘束条件付取引に該当するおそれがあるとして、公取委は2019年に同社日本法人に立入検査を行い、同条項を撤廃するよう求めていたとのことです。同社のこのような条項については既に諸外国で問題となっており、ドイツ最高裁で違法であると確定しているとされます。同社は確約手続きに基づき改善計画を提出しております。
拘束条件付取引とは
独禁法では、事業活動の不当拘束行為として再販売価格の拘束(2条9項4号)、排他条件付取引(一般指定11項)を規定し、それらの行為類型以外のものを包括的に規定した拘束条件付取引を規定しております(一般指定12項)。再販売価格の拘束とはメーカーが卸売業者に自社の製品を卸す際に販売する価格を指示して販売させるといった行為です。排他条件付取引とは、取引の相手方が自社と競争関係にある他社と取引しないことを条件として取引することを言います。いわゆる特約店契約や全量購入契約などが典型例と言われております。これらの不当拘束行為に該当しないものであって、取引相手の事業活動を不当に拘束する条件を付けて取引することを拘束条件付取引と言います。メーカーが自社の販売方針に適合している流通業者とだけ取引するといった場合に問題となることが多いと言えます。
拘束条件付取引となる場合
拘束条件付取引は上記のとおり、再販売価格の拘束、排他条件付取引に該当しないものを包括的に規制しております。再販売価格の拘束では、自社が販売した製品をそのまま販売する業者に対して価格指定する場合に該当します。そのため自社製品をさらに加工して販売する取引相手に価格指定した場合は再販売価格の拘束に該当せず拘束条件付取引となります。また安売りを行う業者に販売しないことを条件に卸売業者に卸す場合も排他条件付取引ではなく拘束条件付取引となります。これら以外にも卸売業者に対し販売先である小売業者を指定してそこ以外との取引を禁止するいわゆる帳合取引や横流し取引の禁止も該当することとなります。また合理的理由のない商品の販売方法を指定する場合も問題となる場合があるとされます。
公正競争阻害性
一般指定12項では、相手方の事業活動を「不当に」拘束する条件をつけて取引する場合に拘束条件付取引に該当するとしております。つまり原則として適法であるが、それが「不当」である場合にのみ違法となるという意味です。この「不当に」とは公正競争阻害性が認められる場合とされております。ここに言う公正競争阻害性の内容は自由競争の減殺と競争の回避であるとされており、行為の形態や拘束の程度等に応じて判断されると言われております(最判平成10年12月18日)。さらにその判断に際しては対象商品のブランド間競争やブランド内競争の状況等が考慮されるとされております。つまり拘束条件付取引の場合、公正競争阻害性はその行為類型ごとに判断基準も異なってくるということです。
コメント
本件でブッキングドットコムでは、取引相手の宿泊業者に自社サイトで宿泊料などを掲載する際には、競合他社のサイトで掲載している価格以下にすることを求める条項を盛り込んでいたとされます。このような行為を有力事業者が行った場合、競合他社の創意工夫による価格競争意欲を低下させる可能性があるとして、公取委は拘束条件付取引に該当する恐れがあるとしました。実際には同社の本条項は宿泊施設側がほとんど守っておらず形骸化していたため公取委も行政処分は行わない方針とされます。以上のように独禁法では再販売価格の拘束や排他条件付取引に該当しない不当条件付取引をまとめて拘束条件付取引として禁止しております。取引相手業者になんらかの条件を付けている場合には、それが違法な拘束条件付取引に該当しないかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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