下仁田物産が虚偽報告で書類送検、労災隠しについて
2022/04/13 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般
はじめに
高崎労働基準監督署は11日、コンニャク食品を製造・販売する下仁田物産(神奈川県厚木市)と元社長の男(74)を労働安全衛生法違反の疑いで書類送検していたことがわかりました。従業員の労災について虚偽報告を行っていたとのことです。今回は労災隠しについて見ていきます。
事案の概要
読売新聞の報道によりますと、2020年7月15日、下仁田物産の群馬工場で従業員がフォークリフトに突き飛ばされ首や腰をねんざするなどした労働災害が発生したとされます。その際当時の社長が労基署に対し、「従業員がつまずいて転倒した」と虚偽の報告をしていた疑いが持たれております。また最大過重1トン以上のフォークリフトを運転する資格のない従業員に運転させていた疑いもあるとのことです。高崎労基署は同社と元社長で顧問の男を虚偽報告と無資格運転の疑いで前橋地検高崎支部に書類送検しております。
労災と労災保険
労働災害(労災)とは、従業員が業務上怪我や病気にかかることをいいます。業務に従事中に発生するものを業務災害、通勤中に発生したものを通勤災害と言います。そして労災保険制度は、これらの労災によって負傷または疾患にかかった労働者に対して必要な保険給付を行い、社会復帰を促進するというものです。その費用は原則として事業主が負担する保険料によってまかなわれます。この労災保険制度は原則として1人でも労働者を使用する事業すべてに適用されるとされ、業種や労働者の正規・非正規、雇用形態等は問わないとされます。事業者側は労災保険の加入や、従業員に労災が発生した際には一定の手続きを行う義務を負っているということです。
労災発生時の会社の対応
労災が発生した際の労災保険の手続きは基本的に従業員本人が行うこととなります。労災補償の種類に応じた請求書を作成し、必要な添付書類とともに労基署に提出することとなります。しかし会社側は何もしなくても良いというわけではありません。会社側は従業員の書類作成や提出に助力する必要があり、また労基署への報告が必要です。具体的には療養補償給付請求書(様式5号または7号)に労災発生の日時や状況を記載し、会社側がこれに押印し内容に相違ないことを証明する必要があります。そして労働者死傷病報告(様式23号)を作成して労基署に提出することが義務付けられます。この労働者死傷病報告は休業が4日以上の場合は遅滞なく提出する必要があります(労働安全衛生法100条、施行規則97条)。一般的に1、2週間と言われております。休業が4日未満であれば、1~3月分は4月末日まで、4~6月は7月末日までと、4半期ごとに翌月末日までに提出すればよいとされております。またこれら手続き上のもの以前に従業員に負傷・疾病が生じた場合は迅速に労災指定病院等での治療を受けさせる必要があります。
労災隠し
上記のように事業主は労災が発生したさいには労働者私傷病報告を労基署に提出することが義務付けられております。これを怠ったり、また虚偽の報告を行った場合には、いわゆる「労災隠し」として50万円以下の罰金が規定されております(労働安全衛生法120条)。またこのような罰則以外にも、監督官庁から許認可を受けて事業を行っている場合は認可取り消しなどの行政処分を受けたり、競争入札での氏名停止処分を受けることも有りえます。従業員に労災が発生したにも関わらずそれを隠蔽していたという、会社に対する悪いイメージも付く可能性があり、売上や取引先が減少する可能性も有ると言えます。
コメント
本件では下仁田物産の群馬工場で起きたフォークリフト事故を、従業員自身の転倒であると偽って労基署に報告していた疑いが持たれております。一般的な労災隠しの理由の他に、無資格者にフォークリフトを運転させていたことの発覚を恐れてなされたのではないかと考えられます。労基署は労災隠しと無資格運転の疑いで送検しております。以上のように従業員1人でも雇用している場合は労災保険に加入する必要があり、労災発生時には労基署への報告や書類作成への協力などが義務付けられます。しかし厚労省の統計では労災隠しの件数は年々増加傾向にあり、コロナ禍によって更に増えるものと予想されております。保険料の増加や会社イメージ悪化、労基署の検査などを恐れるなど理由は様々とされますが、労災隠しは本人の申告や病院での問診など発覚しやすいと言われます。今一度労災保険制度について確認しなおしておくことが重要と言えるでしょう。
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