政府が男女の賃金差の開示を義務化する方針で調整進める
2022/06/01 労務法務, 労働法全般
はじめに
政府は2022年5月20日、「新しい資本主義実現会議」を開催し、企業などの法人に男女別の賃金の開示を義務付けるよう省令を改正する方針を決定しました。会議は賃金の男女差に焦点が当てられ、諸外国と比べて格差が見られることを問題視し、今回の省令改正に踏み切る方針です。岸田文雄首相は首相就任当初から「新しい資本主義」を掲げており、今回の会議は首相の方針が反映された会議と見られています。本記事ではその中から、主に賃金格差など働き方に関する情報をピックアップしていきます。
男女の賃金差の公表に関して
会議の資料によると、上場・非上場を問わず、301人以上を常時雇用する企業を対象に、男女の賃金差の公表が義務化される方針です。こちらは2022年6月に策定される「新しい資本主義」の実現に関する計画に盛り込まれ、年内に施行されることも考えられます。政府資料では、管理職に占める女性割合の国際比較で日本が低位にいること、女性のパートタイム比率が高いこと、男女の賃金差が大きいことなどを問題に挙げ、男女の対等な評価を通じて人材の多様性を高め、企業の成長につなげるために、今回の施策を展開する方針です。省令の改正は、女性活躍推進法に関する省令に対して行われる予定です。同法ではすでに女性役員の比率や男女の平均継続勤務年数の差などの公表を企業などに求めています。
男女の賃金差の背景となるもの
同じ労働条件に従事させながら、性別を理由に賃金に差をつけることは労働基準法で禁じられています(同法4条)。日本国内の企業全体で見た男女間の賃金格差データは、性別が賃金格差を生む要因のひとつになっていることを如実に表しています。今回の会議でも議題にあげられたとおり、多くの企業で管理職への女性の登用の少なさが目立ち、さらに、結婚や出産によって一時的に仕事を離れた女性が復職する際にキャリアの断絶が起こりがちであるという課題が指摘されています。世界の現状で言えば、2020年時点で男性の賃金を100とした場合、女性の賃金は経済協力開発機構(OECD)諸国の平均で88.4にとどまっています。日本は77.5と先進諸国の平均をさらに大きく下回っており、女性の処遇改善は大きな課題です。
【労働基準法第4条】
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労働基準法第4条に関する裁判例
最判平成21年10月20日
「男性は一般職、女性は事務職」という男女コース別雇用管理を行っていながら、勤続年数が長く専門知識のある女性社員が男性一般職と同様の職務を行っていたケースで、当該長期勤続女性と一般職男性との間に生じている賃金格差を、性差によって生じたものと推認されるとして、労働基準法第4条違反を認めています。
最判平成21年1月22日
職能資格等級制度を設けている企業で、同一学歴・年齢が同程度・類似の業務を取り扱う男性社員と女性社員との間に、定期昇給額や本給等の格差が生じていたケースでは、全般的に男性が女性より上位の職能資格等級として位置づけられていたこと、類似業務を行う男性との格付けの相違に合理的根拠が見出せないことなどから、これにより生じた賃金格差を労働基準法第4条違反としています。
最判平成19年7月13日
重量物の運搬、選別・受入検査、行程検査等の作業に従事し、勤続年数や年齢を同じくする女性社員の賃金が男性社員よりも低く設定されていたケースでは、業務内容に重量物の運搬以外の業務も含まれている点を重視し、女性社員と男性社員とで、業務に必要な集中力・緊張度は同程度と認定し(力仕事のみであれば、より重いものを運べる者の賃金を高く設定する合理的理由があると考える余地がある)、労働基準法第4条違反を認めています。
コメント
今後、賃金の男女差の開示が法律で義務づけられた場合、男女差が生じている企業においては、当該格差に対する合理的な説明を行う社会的責任が生じると予想されます。判例を見ましても、合理的な理由の有無はかなり厳しく見られている印象があります。今のうちから、自社の賃金の男女差の有無を確認しつつ、そこに合理的な説明が可能かを検討しておく必要がありそうです。
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