フォーシーズHDが子会社に対する仮処分命令申立てに関する和解成立を公表
2022/07/11 知財・ライセンス, 海外進出, 事業承継, 商標法, 民事訴訟法
はじめに
化粧品及び健康食品の通信販売・EC事業を展開する株式会社フォーシーズHDは6月28日、同社の連結子会社である株式会社Cureと東洋ライフサービス株式会社間で争われていた、中国輸出目的の商品製造・輸出・中国国内販売禁止の仮処分命令申立事件について和解が成立したことを公表しました。そこで本記事では、仮処分命令申立ての流れから和解に至る理由まで詳しく見ていくことにしましょう。
Cureに対する仮処分命令申立ての経緯
株式会社CureはフォーシーズHDの100%子会社として、2015年4月22日に設立された会社です。同社は2015年5月29日に、東洋ライフサービス株式会社との間で「事業譲渡契約」を締結しています。その際、東洋ライフサービス株式会社から株式会社Cureへ、スキンケアシリーズ「Cure」などの商標権を含む化粧品販売事業が譲渡されており、同年7月1日には、両社の間で上記商標権使用に関するライセンス契約が締結されていました。ところが、このライセンス契約は2020年1月23日付で解除されています(フォーシーズHDの発表によると、東洋ライフサービス株式会社の契約違反行為が理由だそうです)。
株式会社Cureは、東洋ライフサービス株式会社より譲渡された化粧品販売事業に関する商品を、当初、国内卸販売からはじめ、2020年からは、オリジナル商品「Natural Aqua Gel」を主軸に、本格的に海外での販売を強化し、実績を上げていました。
こうした中、東洋ライフサービス株式会社は、2021年1月29日、「Natural Aqua Gel」の中国への輸出行為等が、不正競争防止法に違反し、株式会社Cure・東洋ライフサービス株式会社間の黙示の合意に反するものであるとして、株式会社Cureによる中国輸出目的の商品製造・輸出・中国国内における販売の禁止等を内容とする仮処分命令の申立てを東京地方裁判所に行いました。
仮処分命令とは
仮処分とは、ある権利関係を争ってトラブルが生じている場合、裁判の経過を待っていては債権者に大きな不利益が発生する危険性があり、保全を認める必要性がある場合に行われる暫定的な処分です。通常、裁判は結果が出るまでに1年から2年程度かかります。そのため、例えば相手が財産を隠してしまうなどの行為がとられてしまうと、債権者に著しい不利益が生じてしまう場合があります。そこで、一定の場合、仮に財産の処分やその他の相手に不利益を生じさせる行為を禁止したり、債権者に一定の地位を確保させ、裁判結果が無意味なものにならないように対処することがあります。
和解の具体的な流れ
今回の仮処分命令申し立てに対し、株式会社Cure側は申立てに理由がないとして争って来ましたが、最終的に、「和解による解決が望ましい」との結論に至り、別途同社が東洋ライフサービス株式会社に対して提訴していた商標使用差止等請求事件と併せて協議を行った結果、両社間で和解に至ったとのことです。
和解内容としては、
①株式会社Cureは、中国、香港、アメリカ合衆国において、2022年7月1日から 2023年7月31日までの期間、本件商品の製造及び販売を行わないこと
②東洋ライフサービス株式会社は株式会社Cureによる商品の販売を制約する合意は存在しないことを確認すること
③両社は本和解の成立日において商標使用許諾契約を締結すること
④株式会社Cureは、本件に関する告知文をウェブページに6か月間掲載すること
⑤株式会社Cureは東洋ライフサービス株式会社に対する商標使用差止等請求事件を取り下げること
⑥東洋ライフサービス株式会社は本件に係る仮処分の申立を取り下げること
⑦両社は本和解に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認すること
の以上7つです。
コメント
今回、株式会社Cureと争った東洋ライフサービス株式会社は、過去には、2017年12月1日に同社HP上にて、「【重要なお知らせ】類似品・模倣品にご注意下さい」と題する文書を公開し、
(1)東洋ライフサービス株式会社の製品である「Natural aqua Gel Cure」の悪質な類似品・模倣品が中国大陸において販売されていること
(2)それらは形状・表示等において同社製品と酷似しているものの、日本ではなく中国で製造されたものであること
(3)同社は中国を含む海外での製品製造は行っておらず、同社製品を購入の際は重々注意すること
などと注意喚起しています。その後、2018年1月18日には、中国の代理店との代理店契約解除を発表し、「製品購入の際は模倣品に注意し、東洋ライフサービスHP記載の正規代理店経由での購入を薦める」旨、強調しています。
紛争に至った経緯の詳細については、いまだ発表されていないため、現時点ではわかりかねますが、東洋ライフサービス株式会社が中国での類似品・模倣品対策に苦心していた中で、株式会社Cureが中国進出を強化したことで、双方に行き違いが生じた可能性が高いと考えられます。「事業譲渡」も「商標使用許諾」も、契約の目的となる権利義務の範囲を明確にするのが難しい部類の取引です。これらの類型の取引を行う際には、特に、慎重に双方の意思確認を十分に行い、取り扱う権利義務の範囲を明確にすることが重要と言えるでしょう。
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