関西電力が米法人から損害賠償訴訟を提起されたことを公表
2022/08/25 総会対応, コンプライアンス, 会社法
はじめに
関西電力株式会社は2022年8月18日、同社元役員らが福井県高浜町の元助役らから金品を受領していたことにより、米国の法人などから約239億円の損害賠償を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起されたことを公表しました。今回は、関西電力が提起された損害賠償訴訟の具体的な内容や経緯について見ていきましょう。
問題発覚までの経緯
報道などによりますと、去る、2018年1月、金沢国税局の税務調査として、原発工事を担当した土木建築会社への強制調査が行われました。この強制調査により、「土木建築会社から福井県高浜町の元助役に約3億円が流出し、そのうちの一部が関西電力の役員に渡っていたこと」が明らかにされます。
これを受けて、市民団体である「関電の原発マネー不正還流を告発する会」は、関西電力の岩根茂樹前社長と豊松秀己元副社長について、会社法における「取締役等の収賄罪」に当たるとして大阪地検特捜部に刑事告発しました。
市民団体による株主代表訴訟
「関電の原発マネー不正還流を告発する会」は、刑事告発に加え、株主代表訴訟も提起しています。市民団体の訴状によると、関西電力株式会社の役職員らは、原子力発電所の設置に関して地元住民等との折衝を担当していた福井県高浜町の元助役森山榮治氏とその関連会社から、総額約3億6,000万円の金品を受領していました。さらに、森山氏の要求をもとに、原子力発電所関連工事などについて、発注する工事の内容や年度ごとの発注予定額をそれぞれ事前に伝えて発注予定額に見合う発注を行う約束し、実際に約束に従って発注まで行われていたとされています。
このように、公益的な役割を担う電力会社の役員らが、一部の者と癒着し巨額の金品の受領や工事発注情報の提供・工事発注約束、工事発注をしていた事実は、報道によって明らかになるまで当事者によって適切に対応されることはなく、取締役会や監査役会への報告や公表も行われていませんでした。
さらには、役員らは森山氏やその関連会社から受領した金品に関する追加納税を会社資金で補填したり、福島第一原発事故による経営不振時に電気料金を上げる代わりに減額した役員報酬を、秘密裡に補填していたことも明らかになっています。
こうした一部業者への優遇や、電気料金を支払っている住民への背信行為を重く見た市民団体は、株主として関西電力株式会社の役員らの責任を徹底追及するために本件株主代表訴訟を提起しています。
株主代表訴訟とは
株主代表訴訟とは、株主が会社に代わって役員らの責任追及をする訴訟のことです。2020年6月に八木前会長ら旧取締役5人には計19億3600万円の損害賠償を求める訴訟が大阪地裁で提起されましたが、関西電力の株主からは責任追及の範囲が狭いのではないかという声が上がり、最終的には取締役・監査役計22人に対して計約92億1千万円の損害賠償を求める株主代表訴訟が大阪地裁で提起されることになりました。
米法人などからは239億円の賠償訴訟
今回、関西電力が明らかにしたのは、今回の問題に関する責任追及としての239億円にのぼる損害賠償請求訴訟です。原告は米国の法人などを含む82人となっており、提訴は3月23日付で、8月17日に関西電力へ訴状が届いています。今回の訴訟は株主が株価下落による損失を請求する「証券訴訟」に該当し、金品受領問題に関する情報を有報などに必要な内容を記載しなかったことで損失を被ったことが訴訟の理由とされています。また、239億円の損害賠償の他には、2010年6月からの遅延損害金も同時に請求されています。
コメント
報道によると、関西電力が証券訴訟を受けるのは初めてとのこと。証券訴訟はそもそも、有価証券報告書等の虚偽記載が原因で株価の下落が見られた場合に、株主が提起することができる損害賠償請求訴訟のひとつです。今回、米法人などは、金品受領問題に関する必要情報を記載しなかったため、株価の下落による損失を被ったとし、この証券訴訟を提起したことになります。なお、同社はマスコミに今後の対応について尋ねられたところ、「原告らの主張および請求内容を精査したうえで適切に対処する」とコメントしており、同社の今後の対応に注目が集まっています。
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