最高裁、JASRACと音楽教室事業者間の訴訟の概要を公表
2022/09/21 知財・ライセンス, 著作権法
はじめに
音楽教室を運営するヤマハらが日本音楽著作権協会(JASRAC)を被告として提起した「音楽教室における著作物使用に関わる請求権不存在確認請求訴訟」に関し、最高裁判所広報課が傍聴人向けに、訴訟の概要を公表しました。本訴訟では、音楽教室のレッスンにおける楽曲演奏に関し、JASRACが使用料を徴収することの適否が争われています。一審・二審と結論が分かれた同訴訟については、2021年3月31日にJASRAC側が上告し、本年9月29日が口頭弁論期日として指定されています。本記事では、今回の訴訟の経緯・見通し等につき、解説して行きます。
経緯
今回の訴訟に至るまでの経緯は以下となります。
①2000年、録音物の再生演奏に対する権利制限を定めていた著作権法附則14条が撤廃。
②同条の撤廃を受け、2003年より、JASRACからヤマハその他音楽教室を運営する楽器メーカーに対し、利用許諾手続きの請求
③上記が合意に至らないまま、2017年からは、音楽教室事業者で構成される「音楽教育を守る会」との間で継続協議
③2017年6月7日、JASRACが、音楽教室での演奏等に関する使用料規程を文化庁長官に届出
④同月、ヤマハその他の音楽教室事業者がJASRAC を被告とし、「音楽教室での音楽著作物の演奏利用に対しJASRACが請求権を有しないこと」の確認訴訟を提起
主な争点
著作権法第22条の規定上、著作権者の承諾を得ることなく、公衆に直接聞かせる目的で音楽著作物を演奏して利用した場合、著作権侵害が成立します。この22条に関し、原告と被告とで、以下のように見解が分かれていました。
(1)音楽教室事業の遂行過程における音楽著作物の利用主体
ヤマハら:教師または生徒
JASRAC:利用態様にかかわらず音楽教室事業主
(2)音楽教室での演奏は「公の演奏」か
ヤマハら:音楽教室内では、「公衆」に当たる聞き手がいないから、「公の演奏」ではない。
JASRAC:生徒は著作権法にいう「公衆」に当たる聞き手であるから、音楽教室で行われる演奏は「公の演奏」である。
(3)著作権法22条の「聞かせることを目的」とする演奏
ヤマハら:音楽を通じて聞き手に官能的な感動を与えることを目的とする演奏に限られる
JASRAC:音楽著作物の演奏を聞かせる目的意思があれば、「聞かせることを目的」とする演奏にあたる
一審・二審の判断
■第一審
音楽教室においてJASRACの管理著作物を演奏利用する場合には、教師による演奏・生徒による演奏・録音物の再生等の演奏利用の態様の別なく、その演奏利用全般に対して著作権が及ぶとして、JASRAC側の主張を全面的に認めました。
■第二審
教師による演奏および録音物の再生については音楽教室事業者が利用主体であると、JASRAC側の主張を認めた一方、生徒の演奏については、物理的に演奏行為を行っている生徒が利用主体であるとして、当該部分につき原判決を変更しました。
最高裁での主な争点
最高裁判所広報課が発表した資料によりますと、今回の最高裁における争点は、「JASRACが管理する音楽著作物を音楽教室の生徒が演奏した場合、音楽教室事業者が音楽著作物を利用している(利用主体である)といえるかどうか」となるとのことです。JASRAC側は、生徒が演奏する場合でも、収益を上げる音楽教室事業者が利用主体となると一貫して主張しています。
コメント
全国に音楽教室は約7000施設あると言われており、今回、もしJASRAC側が勝訴した場合、徴収額だけでも年間3億5千万~10億円になると試算されています。今回、JASRAC側が使用料徴収の対象となるとして争っているのは、楽器メーカーや楽器店が運営する音楽教室ですが、将来的には、現在は「事業規模が小さく継続性が低い」として対象から除外している“個人教室”も対象に含めることを視野に入れていると言われています。
JASRACは、これまでも、「ダンス教室における音楽著作物の演奏利用は公衆(不特定かつ多数の生徒)に対するもの」との判決や、「カラオケ施設における音楽著作物の歌唱利用は、客の歌唱によって利益を得ているカラオケ施設事業者が音楽著作物の利用主体とみなせる」旨の判決を得ており、こうした勝訴判決の数々で積み上げて来た法理論を根拠に、徴収対象となる施設を着実に拡大して来ています。JASRACの徴収額は、2021年度で1,167億3千万円にのぼり、分配額は1,159億7千万円と発表されています。CD不況や新型コロナウイルス感染拡大による音楽イベントの減少などを受け、苦境に陥っている音楽クリエイター・権利者等にとっては、ありがたい動きになっていると見ることもできます。
JASRACが行う徴収対象施設拡大の動きに対しては、賛否両論あると思いますが、リーガルの力で事業を伸ばすという意味では、法務パーソンとして参考にできる面もあるのではないでしょうか。今後の訴訟の趨勢にも注目していきましょう。
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