ムトー精工、子会社における棚卸資産・不適切会計疑惑に関し調査報告書を公表
2022/10/04 コンプライアンス, 会社法
はじめに
岐阜県に本社を置き、主にソニー向けにプラスチック部品およびその金型を製造するメーカー、ムトー精工株式会社(東証スタンダード)は、2022年9月13日、連結子会社であるタチバナ精機株式会社において、実績のそぐわない棚卸資産が計上されている疑惑等に関し、特別調査委員会の調査結果を公表しました。
本疑惑に関し、ムトー精工では、当初、社内調査による事実関係の確認を進めていましたが、タチバナ精機の棚卸資産に架空の在庫の計上や適切な評価減が行われていなかったことにより、過年度より過大計上となっていた可能性が判明したことから、独立の立場から客観的な視点で事実関係・発生原因を調査するべく、外部有識者による特別調査委員会を設置し調査を行っていました。本記事では、当該調査結果の概要をご紹介します。
特別調査委員会が認定した事実
調査報告書によりますと、当初の疑惑のとおり、タチバナ精機において、システム課担当者(以下、「A氏」)による架空在庫の積み上げが確認されたとしています。その始期については、A氏の記憶が定かでなく特定できなかったそうですが、遅くとも 2014年3月から本件事案の架空在庫の計上が行われたことが確認されたといいます。
■架空在庫計上の手法
・月末に作成する「在庫金額集計表」において、[製品]の完成品・仕掛品・原材料の欄に任意の金額を直接加算。
・また、各四半期に作成する在庫金額集計表の明細(「完成品.xlsx」及び「仕掛品.xlsx」)において、同ファイルの複数の品目について、実地棚卸数を架空の数値に修正する又は在庫残高の欄を直接修正して在庫残高を過大に。(2014年3月期)
・「完成品.xlsx」及び「仕掛品.xlsx」において、同ファイルに任意の品目コード・単価等を入力、その上で、在庫数量又は在庫残高の欄に任意の数字を直接入力。(2014年6月期から2018年3月期)
また、「完成品.xlsx」及び「仕掛品.xlsx」を税理士に提出する際には、架空在庫を計上していることが発覚しないよう、当該調整された品目の行は非表示としたうえで、該当ページを印刷して提出していたとのことです。
なお、タチバナ精機の経理課は、A氏から受けとった在庫金額集計表等に記載されている金額を機械的に会計システムに入力するに留まっており、実地棚卸及び在庫集計等の在庫管理業務には関与していなかったといいます。そのため、A氏の行った在庫集計作業の正確性等を確認する機能は有していなかったことがわかっています。
架空在庫計上の動機
上述のように、今回の架空計上は、タチバナ精機のシステム課担当者A氏により行われましたが、調査報告書によりますと、その動機として、A氏の直属の上司であった、当時の取締役統括本部長兼管理部部長(以下、「B氏」)の存在があったといいます。
当時、A氏はB氏に対し、在庫金額集計表に基づいて在庫残高を報告していましたが、その際、B氏から在庫金額の増減をこと細かに確認され、在庫金額がB氏の想定よりも低い場合、B氏が棚卸の正確性を疑い、生産ラインを停止して棚卸の再実施を命じることがあったとされています。
再棚卸の結果、在庫金額集計表の数値が正確であったことが判明した後も、B氏は納得せず「在庫金額が間違っているのではないか」との指摘を続けたことがあったといいます。さらに、在庫金額の件で、B氏から他の従業員の前で大声で叱責されることも少なくなかったと報告されています。
こうした背景がある中で、
・A氏がB氏に在庫残高を報告することに強い心理的負担を感じていたこと
・棚卸の再実施のために生産ラインを止めることで、他の従業員に迷惑がかかり、ひいてはタチバナ精機の事業にも影響が出ると懸念されたこと
などから、B氏からの棚卸の再実施を命じられることを避けるべく、在庫金額がB氏の想定する金額となるように架空の在庫を計上するようになったとされています。
コメント
タチバナ精機は、2007年1月にムトー精工に買収され、同社の連結子会社となった会社です。タチバナ精機は、A氏による在庫の架空計上を認識した後においても、親会社であるムトー精工に報告せず、架空在庫金額を徐々に取り崩すという方法により処理していました。調査報告書では、こうしたタチバナ精機の会計に対する意識の低さ、経理規程下の細則を含む社内規程の不備・杜撰な運用、管理機能の不備、ワンマン経営の社風及び風通しの悪い風土の醸成が本件の発生原因と指摘しています。
また、ムトー精工に対しては、今後、 再発防止策の一環として、子会社管理に関する方針の見直し(子会社管理に係る規程を改めて策定し、その着実な運用のために、制度や人的体制を整備)、グループ監査体制の強化、グループ会社間での内部通報制度の整備及び周知等を行うべきとしています。
ムトー精工は、グループ外の会社を買収した経験が、タチバナ精機を含め2社しかなく、既存の非上場会社を連結子会社化する経験が少なかったことも指摘されています。買収後の子会社管理の難しさを痛感する事例となりました。
【関連リンク】
特別調査委員会 調査報告書
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