5G情報流出でソフトバンク元社員に懲役2年の判決
2022/12/12 コンプライアンス, 情報セキュリティ, 不正競争防止法
はじめに
ソフトバンクの高速大容量通信システム「5G」の情報を流出させたとして、不正競争防止法違反罪に問われた元社員に対し、東京地裁は懲役2年、執行猶予4年、罰金100万円の有罪判決を言い渡しました。求刑は懲役2年、罰金100万円でした。
事件の経緯
報道などによれば、元社員の男はソフトバンクから楽天モバイルに転職する直前、社外から自分のパソコンで同社のサーバーにアクセスし、営業秘密にあたる5Gの技術情報などを不正に取得し持ち出した罪に問われていました。
元社員が持ち出したとされるソフトバンクの4Gと5Gの基地局設備や固定通信網に関する技術情報だったということです。
男は裁判の中で「営業秘密だと認識しておりませんでした」と無罪を主張していましたが、東京地裁は9日の判決で「持ち出した際に営業秘密に該当することを認識していて、故意があった」と指摘しました。
退職後の社員による機密漏洩
漏洩する情報の中には、技術情報のような企業が長年積み上げてきた大事な情報や、顧客や取引先の情報など、漏洩すると大きな社会問題となる情報も含まれます。
まずはどんな情報が営業秘密して保護されるのかみていきます。
経産省では3要件を定めています。(不正競争防止法第2条6項)
■非公知性:
保有者の管理下以外では一般に入手できず、公然と知られていないこと。
※第三者が偶然同じ情報を開発して保有していた場合でも、当該第三者も当該情報を秘密として管理していれば、非公知といえる。
■有用性:
現実に利用されていなくても、事業活動 に利用されることによって、経費の節約、経営効率の改善等に役立つといった有用な技術上又は営業上の情報であること。
※設計図、製造ノウハウ、顧客名簿、仕入先リスト、販売マニュアルなど
■秘密管理性:
秘密として管理されており、保有企業の秘密管理意思が、秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保されていること。
こうした情報の漏洩ルートとして、実は近年増加傾向にあるのが、退職者による情報漏洩。ある統計では営業秘密の漏洩ルートとしては、中途退職者によるものの方が、現職従業員の誤作動などよりも多いと示しています。
(独立行政法人情報処理推進機構「企業における営業秘密管理に関する実態調査2020」報告書について)
これまでにも退職者による情報漏洩は問題となっていて、中には海外に情報を流出させたケースもありました。
大手鉄鋼メーカー・新日鉄住金は、元社員の70代の男性に対し、韓国の鉄鋼大手企業に特殊な鋼板の製造技術を提供したとして、不正競争防止法に基づき、損害賠償訴訟を起こしていました。この男性を含めた技術漏えいに関与した元社員約10人が新日鉄住金に解決金を支払っています。
退職後の社員への対策
いくつか効果的な対策がありますが、一つ目は秘密情報へのアクセス権を削除することです。業務に支障のない範囲で、退職前であっても、秘密情報に触れられないようにすることが効果的です。難しい場合でもなるべく最新の秘密情報を知られない努力をしていくことやアクセス権を段階的に規制していくことなどが求められます。
二つ目は、秘密保持契約などの締結です。在職中に知り得た秘密情報を対象に含め、個別に秘密保持契約などを退職時に結ぶことで、退職者への注意喚起にもなります。また、営業秘密に関する情報が記録された資料やUSBなどを返却させるなどし、保有させないようにすることが大切です。
コメント
このように、退職社員による自社の秘密情報の漏えいに注意することも大切ですが、逆に、新たに入社した転職者を通じて、他社の秘密情報を意図せず侵害してしまうリスクもあります。その結果、他社から不正競争防止法違反や契約違反等を理由に、損害賠償請求訴訟・差止請求訴訟を提起されるおそれがあります。
経済産業省が発表した「秘密情報の保護ハンドブック」では、転職者を受け入れる際に、以下の対応を行うことが推奨されています。
・転職者の契約関係の把握(転職元に対し負っている秘密保持義務の内容の把握)
・転職者採用時における誓約書の取得等
・採用後の業務内容の定期的な管理(私物USB等の業務利用や持込みがなされていないかの確認)
今一度、自社の転職者受け入れ時のフローについて確認してみてはいかがでしょうか。
【参考リンク】
秘密情報の保護ハンドブック(経済産業省)_第5章 他社の秘密情報に係る紛争への備え
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