うまい棒製造会社、違法な長時間労働で罰金
2022/12/27 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般
はじめに
検察庁は、スナック菓子「うまい棒」などを製造する菓子メーカー、リスカ株式会社(茨城県常総市)が従業員9人に違法な長時間労働をさせていたとして、労働基準法違反の罪で、12月16日までに法人としてのリスカと、社長を略式起訴しました。これを受けて、下妻簡易裁判所は、それぞれに罰金10万円の略式命令を出しています。
報道などによりますと、リスカは2021年1月1日から11月30日までの間、市内の工場で働く従業員9人に、労働時間の延長に関する協定を超える時間外労働をさせたとされています。1ヶ月あたりの時間外労働が100時間を上回ったり、複数月の平均で80時間を超過したりし、最長で月に約120時間にも及ぶ例があったということです。リスカでは数年前から長時間労働が指摘されていたとも言われています。
労働関係法令違反での刑事責任追及の流れ
今回、リスカ株式会社は、労働基準法違反を理由に刑事訴追され、罰金を言い渡されていますが、労働基準法違反が即座に刑事訴追に結びつくわけではありません。以下が、労働関係法令違反での刑事責任追及の流れになります。
(1)行政指導等
労働基準法違反が認められた場合、まずは、違反企業に対し、行政指導等による是正が促されます。
(2)労働基準監督官による捜査
以下のような場合には、労働基準監督官による捜査が開始されます。
・違反企業が(1)の行政指導等に適切に応じない場合
・労働者から告訴があった場合
・第三者から告発があった場合
・死亡事故や重症事故が発生した場合
・重大な法令違反が発覚した場合(労災隠しetc.)
(3)送検
労働基準監督官の捜査終了後、検察官に送検されます。その際、捜査で入手した証拠と労働基準監督官の意見書が添えられます。
(4)起訴
送検後、検察官は、起訴するか否かを判断します。具体的には、検察官が、起訴猶予が相当と判断した場合や嫌疑不十分と判断した場合、罪とはならないと判断した場合には、不起訴として処分されます。なお、労働基準監督署の送致事件の起訴率は約43%(2017年)とされています。
(5)判決
検察官や被告人が提出した証拠や被告人の弁論をもとに、裁判官が判決を下します。
今回の事件では、上記段階を一つ一つ経た末に、リスカに罰金の略式命令が出されていることから、相応に悪質な事例と判断されたと考えられます。
労働基準法の時間外労働規制
今回注目された労働基準法の時間外労働規制について改めておさらいします。労働基準法は労働条件に関する最低基準を定めているもので、平成30年6月に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」によって、長時間労働の抑制等を目的とした労働基準法の一部改正が行われています。
これにより、時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間となりました。いわゆる「36(サブロク)協定」という名称で広く知られています。一方で業種や職種、時期によっては上限の厳守が難しい場合に、企業と従業員の間で臨時的な特別の事情として通常より多い業務をこなすと合意した場合でも、以下の条件を守る必要があります。
・時間外労働が年720時間以内
・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
・原則の月45時間を超えて労働させることができる回数は年6か月以内
いずれの場合においても、時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満で、時間外労働と休日労働の合計は2~6月平均で1月当たり80時間以内とする必要があります。
時間外労働にまつわる違反事例
企業が36協定を結ぶことなく時間外労働・休日労働をさせた場合や、時間外労働の上限規制に違反した場合には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
では実際にどういった場合に違反とみなされるのか、過去の事例集から抜粋し、一例をみていきます。
事例①
出勤日に押印する出勤簿のほか、早出・残業や休日出勤時に作成する申請書があるが、日々の始業時刻・終業時刻が記録されていない。
始業・終業時刻は適正に把握し、記録する法的義務があります。2019年4⽉に改正労働安全法が施⾏され、労働時間の状況の把握と記録をすることが義務付けられました。
タイムカードやICカード、パソコンの使用時間の記録といった客観的な方法で記録し、止むを得ず自己申告制にする際には必要に応じて実態調査を行うことが求められます。
出勤⽇のみを出勤簿等で把握し、始業・終業時刻を記録していない状態は、割増賃⾦の未払いや過重な⻑時間労働による 健康障害といった深刻な問題が発生するリスクが高まる恐れがあるからです。
事例②
複数の事業場(支店、工場、店舗など)があり、それぞれの事業場で時間外労働や休⽇労働を⾏わせているが、36協定は本社で1つ作成し、本社管轄の労働基準監督署にしか届け出ていない。
場所が別なら 「36 協定」は別々に作成し届出が必要です。
労働基準法の適用は企業単位ではなく、事業場単位。支社、支店、工場などが場所的に分散している場合、原則としてそれぞれが別個の事業場となるため、それぞれの事業場において 36 協定を届け出る必要があります。また、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署が異なる場合は、それぞれの労働基準監督署への届出するのが原則です。就業規則や変形労働時間制に関する協定届などの各種届出も同様です。
事例③
課⻑職以上の管理職には時間外労働や休⽇労働に対する⼿当を⽀払っていない。そのため、時間管理も⾏っていない。
管理職なら「管理監督者」になるとは限らないためです。
労働基準法第41条第2号の「監督若しくは管理の地位にある者」(いわゆる「管理監督者」)に該当する場合は労働時間や休憩、休日に関する規定が適用されないため、法定労働時間を超えて働かせても割増賃⾦を⽀払う必要はありません。ただ、これに該当するケースは経営者と⼀体的な⽴場にあり、権限や待遇などが通常の労働時間の規制になじまないような実態があるごく少数の者に限られます。
そのため主任や課⻑などの役職以上の者を⼀律に管理監督者扱いし、時間外労働・休⽇労働に対する割増賃⾦を⽀払っていない場合、労働基準法第37条違反に問われる可能性が極めて高いと考えられるということです。
管理監督者に該当する従業員についても、深夜労働に対する割増賃⾦は⽀払う必要があり、過重労働を防⽌し、健康管理を⾏うという⾯からも当然労働時間の管理を⾏う必要があります。
コメント
今年1月、うまい棒の販売会社である株式会社やおきんは、うまい棒の価格を10円から12円に値上げし、発売から42年で初めての値上げとして話題になりました。うまい棒は、年間4億2000万本以上売れているという話もあり、今や国民食とも呼べる存在です。
そのような中で、1本10円という価格を守るために、製造会社が従業員に違法時間外労働を強いていたのだとしたら、なんともやりきれない話です。
その他にも今回の違法な時間外労働の背景として、労働力不足と採用難もあったとされています。
価格維持のため従業員の負担が増え、労働環境の悪化が従業員の離職を招き、その結果、残された従業員の労働環境がさらに悪化する。そして、その風評が採用難に繋がるという悪循環に陥っていた可能性があります。
労働基準法違反で有罪判決を受けた場合、懲役や罰金が科され、さらに前科も付くことになります。それは、ひいては企業の風評にも甚大な影響を与え、事業経営にも大きなインパクトとなるおそれがあります。
こうした悪循環に陥る前に、ある種、「利益を失ってでも法令を守る覚悟」で、従業員の労務管理にあたる必要があるでしょう。
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