障害者の工賃巡り国を提訴、消費税の税控除について
2023/01/10 労務法務, 税務法務, 労働法全般, 租税法
はじめに
廃棄ペットボトルの分別作業などを担当した障害者に支払われる工賃が労働の対価に当たり税控除の対象となるとして、社会福祉法人が国に対し納めた消費税のうち約2500万円の返還を求め提訴していたことがわかりました。障害者の工賃について争う訴訟は異例とのことです。今回は事業者が納める消費税とその控除について見ていきます。
事案の概要
読売新聞の報道によりますと、名古屋市で障害者の就労継続支援などを行っている社会福祉法人「ゆたか福祉会」のB型事業所では、通いで働く障害者がペットボトルのリサイクルや衣服のクリーニングなどを担当しているとされます。障害の程度が軽い人が利用しているA型事業所とは異なりB型事業所では雇用契約を結べないため給与ではなく作業量に応じて工賃を支払ってきたとのことです。この工賃が業務委託などで支払う報酬に該当すれば税控除の対象となるとして2013年~17年に納めた計約4960万円の消費税のうち約2500万円の返還を求め国を提訴しました。なお国税不服審判ではすでに審査請求が棄却されております。
消費税の仕組み
消費税は消費一般に広く課税される間接税とされ、日本国内のほぼ全ての商品・役務の取引が対象となります。消費税を負担するのは消費者であり、事業者が消費者から受け取った消費税を国に納付します。原材料製造業者から完成品製造業者、卸売業者、小売業者を経て消費者に届くまで、各段階で消費税が課されますが、それらは全て最終的に消費者が負担する仕組みを取っております。これを税の転嫁と呼びます。対象となる課税事業者は売上高が1000万円を超える事業者、消費税課税事業者選択届出書を提出している事業者、新設法人または特定新規設立法人に該当する事業者とされます。それら課税事業者は一定期間ごとに課税売上高から返品、値引き、割戻、仕入れ等に係る消費税額などを控除して税率を乗じた額を国に納付することとなります。
仕入額控除
上記のように消費税は課税期間中の課税売上から仕入れ等に係る消費税額を控除することになります。この課税仕入れとなる取引は主に(1)商品等の棚卸資産の購入、(2)原材料等の購入、(3)機械や車両、建物等の事業用資産の購入、(4)広告宣伝費、接待交際費、通信費、光熱費等、(5)事務用品や消耗品等の購入、(6)修繕費、(7)外注費などが挙げられます。そしてこの外注費は他の会社や個人事業主と請負契約や業務委託契約を締結して業務の一部を外注した場合の費用とされます。このような外注の場合、役務提供の対価として支払った額に消費税が発生し、消費税も合わせて相手方に支払うこととなります。そしてその分が仕入額控除の対象となります。これに対して従業員に支払われる給与には消費税は発生しません。そのため同じ業務を行っても雇用契約を結んでいる従業員が行った場合と外注した場合では国に納める消費税額に差が生じると言われております。
外注費該当性
このように事業で会社が負担した費用が給与か外注費かで消費税額が変わってきます。それではどのような場合に外注費とみなすことができるのでしょうか。消費税基本通達によりますと、業務を受けるか否かの諾否の自由がある、業務上の指揮監督がない、労働の場所や時間について拘束性がない、労務の提供がその人に限定されておらず代替性がある、引き渡し未了の物件等が不可抗力により滅失した場合報酬請求ができない、材料や用具等が提供されていないといった場合は給与ではなく業務委託や請負の対価としての報酬、つまり外注費とされます。他にも報酬額が時間給相当ではないことや他社の業務に従事することができ専従性がないことなども判断要素とされており、これらの点を総合的に考慮されるとされております。
コメント
本件で社会福祉法人のB型事業所で作業に従事する障害者は同法人とは雇用契約を締結しておらず、その時の作業量や成果に応じて工賃を支払っているとされます。税務署ではこのような工賃は就労訓練を行う福祉サービスの一環として支払う給付であるとして労働の対価に該当しないとしております。つまり給与か外注費に当たるか以前に労働の対価性が否定されております。しかし能力等に応じて算定されていることから一律に給付とは見れないとの声もあり司法判断に注目されます。以上のように事業に係る費用が給与か外注費か、またはそれらにも該当しないかで消費税の控除に影響を及ぼします。一概には言えませんが雇用ではなく業務委託や請負を活用したほうが節税につながる場合もあると言われております。自社の業務の性質や労務状況に合わせて税務対策を検討していくことが重要と言えるでしょう。
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