国立病院機構の医薬品発注で入札談合疑い、卸大手含む5社に6億円の課徴金へ
2023/01/19 独禁法対応, 独占禁止法, 医療・医薬品
はじめに
公正取引委員会は、「独立行政法人 国立病院機構」が発注する医薬品の共同入札において、談合を繰り返したとして、医薬品卸大手のアルフレッサ株式会社、スズケングループ傘下の株式会社翔薬、東邦薬品グループの九州東邦株式会社、富田薬品株式会社、株式会社アステムの5社(以下、「医薬品卸5社」)に対し、合わせておよそ6億円の課徴金納付を命じる方針を固めました。
事件の経緯
国立病院機構は、地域における安定的な医療の提供と質の高い臨床研究や人材育成を使命とする独立行政法人です。同機構は、九州にある31の病院の医薬品の発注を行っています。
報道によりますと、医薬品卸5社および株式会社アトル(メディパルホールディングスグループ)の6社は、2016年夏から19年の秋ごろにかけて、国立病院機構の発注に係る共同入札にて、受注業者や受注割合・落札価格を事前に取り決める談合を繰り返していた疑いが持たれています。
公正取引委員会は現時点で最終的な処分は下していませんが、医薬品卸5社に対し、合計およそ6億円の課徴金の納付と、再発防止などを求める排除措置命令を出す方針を固め、各社に通知したとみられています。
なお、今回談合を行ったとされている6社のうち株式会社アトルは、公正取引委員会に違反の事実を最初に申告したことから、課徴金減免(リーニエンシー)制度により、いずれの命令も免れる見通しです。
談合とは
国や地方公共団体などは公共工事や物品の公共調達に関し、入札を行うことがあります。今回行われたのは共同入札と呼ばれるもので、 1つの財産を複数人で共有するために共同で入札する方式です。共同入札をするには、共同入札者の間で代表者を決定し、参加を申し込むことが通例です。
その中で発生した、入札談合。入札に参加する企業同士が事前に相談しあい、受注する企業や金額などを決めて、値段を故意につり上げるなどする行為を指します。談合をすることで価格競争が行われなくなり、高値での落札が実現されます。
発注側である公共団体などにとっては、本来、より安く発注できた可能性があるものが「入札談合」により不当に価格が引き上げられ、税金の無駄づかいにつながってしまうため、悪質な犯罪行為です。
医薬品卸業界で談合が繰り返される背景には?
医薬品卸業の談合事件は過去にも発生しています。2022年にも医薬品卸大手3社が談合をしたとして、公正取引委員会から摘発されています。
医療品卸の企業が談合に手を染めてしまう理由の一つに、製薬会社と医療機関の間で、医療品卸業者が身動きが取れなくなっている現状があります。
そもそも医療品卸業とは、製薬企業からさまざまな医薬品を仕入れ、病院などに提供・販売する企業を指します。欧米では製薬会社が直接、医療機関や薬局などと取引する場合が多いようですが、日本では医療品卸が中間に立ち、医薬品の安定供給の責務を果たしています。
その中で、仕入れ先である製薬会社としては、当然、販売する薬の価格を高く保ちたいと考えます。一方で、薬を購入する医療機関としては、患者側が支払う薬価が国により定められており、それが流通取引上の上限となっていることから、出来るだけ安く薬を仕入れ、薬価と仕入れ価格の差によって生じる利益を大きくしたいと考えます。
こうした中、医薬品卸の会社においては、「医療機関側の購入価格」と「製薬会社からの仕入れ価格」との差額が自社の利益となりますが、製薬会社と医療機関の間に入り、両者からプレッシャーを受ける中で、医療品卸の会社の利益は低くなる傾向にあると言われています。このようなシビアなビジネス環境が、医療品卸の会社が談合に手を染めてしまう要因の一つと考えられています。
また、全国的に病院を運営している会社や団体側は、県をまたいでも調達のできる全国展開の医療品卸会社を求める傾向があります。しかし、全国に流通網を持つ卸会社は少なく、実際に入札に参加できる会社が限られているのが現状です。こうした状況も、卸会社同士の関係性を緊密にし、談合をしやすい環境を生んでいるといえます。
コメント
度重なる医薬品卸業の談合事件。課徴金の額も億単位と桁違いですが、何よりも顧客の信頼を取り戻せるかが今後の大きなポイントとなります。
コンプライアンスの問題は、究極的に、経営層および従業員が「利益を失ってでも法令を遵守する」という覚悟を持てるかという問題に行き着きます。一方で、企業活動の継続には利益を生み出し続けることが不可欠です。
ただでさえ利益が少ない中で、さらに利益を失ってでも法令を遵守しようと考えるのは、誰しも難しいと思います。そのため、利益をあげづらいシビアなビジネス環境下で法令違反が生まれやすくなるのは、自明の理です。
その意味では、逆に会社の経営を上向かせることで、コンプライアンスを推進できる側面もあるといえます。
2023年は、世界経済が冷え込みを見せる可能性が高いと囁かれています。上述のように、シビアなビジネス環境下では経営層・従業員のコンプライアンス意識が低下するおそれがあります。不況下では、
「法務の立場からビジネスを推進し、それにより、会社の法令遵守にも貢献する」
そんな、法務パーソンが強く求められるようになるかもしれません。
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