日医工が増資後に上場廃止へ、第三者割当増資の手続きについて
2023/01/19 商事法務, 会社法
はじめに
経営再建中のジェネリック医薬品大手「日医工」(富山市)は第三者割当増資後に資本金を1億円に減資して上場廃止する予定であることがわかりました。臨時株主総会は2月17日開催予定とのことです。今回は第三者割当増資の手続きについて見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、日医工は滑川市にある富山第一工場での品質不正問題で2021年3月に県から業務停止命令を受け、業績悪化により経営再建中であったとされます。昨年12月に成立した事業再生ADRで財務体質の改善が図られることとなり、現在の資本金359億7586万円から1億円に減資がなされ、3月末または4月下旬に上場廃止となる予定とのことです。また国内投資ファンドの「ジェイ・ウィル・パートナーズ」と「メディパルホールディングス」が出資する合同会社「ジェイ・エス・ディー」に197億円の第三者割当増資を行い資金調達する予定とされます。なお新代表取締役はスイスのジェネリック大手「サンド」の日本法人社長岩本紳吾氏(62)とのことです。
募集株式の発行
会社の資金調達方法には金融機関からの借り入れと並んで募集株式の発行があります。募集株式の発行は会社の社員たる地位を細分化したものである株式を新たに発行し、それに対して引受人が会社に出資するというものです。出資された財産は資本金または資本準備金に計上されることとなります。また同時に株主としての地位が増加することから会社経営にも大きな影響を及ぼす場合があります。そのため募集株式の発行は公開会社、非公開会社で手続きが大きく異なっております。多数の株主が常時入れ替わり、株主の会社経営への関心が比較的薄い公開会社と、小規模で人的関係が緊密な非公開会社では株主の変動による影響の度合いが違うからです。以下それぞれの会社に必要な手続きを見ていきます。
公開会社の場合
公開会社が第三者割当増資を行い場合、まず募集事項の決定を取締役会決議で行います(会社法201条1項)。ここでは募集する株式の数、出資の金額と算定方法、現物出資がある場合はその内容と金額、払込期間または期日、増加する資本金と準備金に関する事項を決定します。なお有利発行の場合は株主総会の特別決議を要します(199条2項、309条2項5号)。そしてこれらの事項に商号、申込期日、払込取扱金融機関などを申込をしようとする者に通知します(203条1項)。また払込期日の2週間前までに株主にも通知または公告を行います(201条3項)。これは株主が知らない間に取締役会で決定がなされることもあることから、株主に差し止めの機会を提供するためです。そして申込を受けた会社は、その申込者の中から誰にどれだけ割り当てるかを決定します(204条1項)。この決定は譲渡制限株式を割り当てる場合は取締役会決議を要しますが、そうでない場合は代表取締役等が決定できます(204条1項、2項)。引受人が払込期日に出資をしたら、その日から2週間以内に発行済株式数と資本金が増加した旨の登記を行うこととなります。
非公開会社の場合
非公開会社が第三者割当増資を行う場合、募集事項の決定は株主総会の特別決議による必要があります(199条2項、309条2項5号)。公開会社では有利発行の場合に株主総会決議が必要でしたが、非公開会社の場合は有利発行であるか否かにかかわらず株主総会が関与することとなります。なお1年間の期間内で取締役会にこの決定を委任することもできますが、その委任決議も同様に特別決議を要します(200条3項)。そのため公開会社で求められていた払込期日の2週間前までの株主への通知は不要です。そして申込者への割当決定は公開会社では基本的に業務執行の一環として代表取締役等が決定できますが、非公開会社では割り当てる株式にかかわらず取締役会決議または株主総会の特別決議が必要です(204条2項、309条2項5号)。これは譲渡制限株式の譲渡承認に近い性質があるためです。その後の出資の履行や登記は公開会社と同様です。
コメント
本件で経営再建中の日医工は2月の臨時株主総会を経て資本金を1億円に減資した上で上場廃止する予定です。これにより税法上は中小企業と扱われることとなり優遇税制を受けることができます。またこれはジェイ・エス・ディーを引受人とする第三者割当増資の効力発生を条件として減資がなされるとされ、増資後に最終的に1億円となるとのことです。同社は公開会社であることから募集株式の決定と割当は取締役会で行うことが可能です。なお増加した分の株式は上場廃止後に株式併合される予定となっております。以上のように経営再建では資本金の減少や第三者割当増資、株式併合、上場廃止など様々な手続きを組み合わせて行われることが多いと言えます。しかし会社法上それぞれに複雑な手続きが法定されております。公開、非公開、株主割当、第三者割当など株式発行だけでもそれぞれに手続きが異なります。自社の性質や状況に合わせて必要な手続きを慎重に確認していくことが重要と言えるでしょう。
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