最高裁が「貸し付けに当たる」と初判断、給料ファクタリングについて
2023/02/22 労務法務, 会社法
はじめに
給料債権を買取る給料ファクタリングが貸金業法の貸し付けに当たるかが争われた訴訟で最高裁が20日、貸し付けに当たるとの判断を示しました。被告には懲役3年の有罪判決が確定したとのことです。今回は給料ファクタリングについて見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、被告(51)は2020年3月~7月、貸金業の登録を受けずに504人から969回、計約2790を貸し付け、法定利息を上回る利息を受け取っていたとされます。給料額の6割程度で債権を買い取り、給料受け取り後に買い戻すという仕組みを取っていたとされ、客は現金を早く手に入れる分、業者はその差額を利益として受け取っていたとのことです。被告側は客にとって債権の買い戻しは義務ではなく、貸金業法や出資法が規制する貸し付けには当たらないと反論しておりましたが、下級審や金融庁は貸し付けに当たるとの判断を示しました。
ファクタリングとは
ファクタリングとは、一般に企業が取引先に対して有する売掛債権をファクタリング会社が買い取り、買い取った債権の管理・回収を自ら行う業務を言うとされております。ファクタリング業者は一定の手数料を差し引いて債権を買い取り、自らその債権の回収を行います。また債権を売却する側は弁済期よりも早く資金を得ることができ、借り入れ以外の資金繰り方法として利用することができます。このファクタリングの法的性質は売買契約に基づく指名債権の譲渡であり、金銭の貸借には当たらないとされていることから本来貸金業法に基づく登録も必要ない業態と言えます。しかし金融庁によりますと、このファクタリング業に見せかけて、実際には高額な手数料で債権を買い取り、自ら債権回収は行わず、売り主に回収させた後で買い戻させるという偽装ファクタリングが発生しているとされます。
貸金業とは
貸金業法2条1項によりますと、「貸金業」とは、金銭の貸付けまたは金銭の貸借の媒介(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によってする金銭の交付または当該方法によってする金銭の授受の媒介を含む)で業として行うものをいうとされております。ただし例外として、国または公共団体が行う場合、他の法律で特別に規定がある場合、物品の売買、運送、保管または売買の媒介を業とする者が取引に付随してする場合、事業者がその従業者に対して行う場合などは除外されております(同項各号)。また金融庁の説明では、消費者金融やクレジットカード会社など、財務局または都道府県に登録し、金銭を貸す業務を行っている者を「貸金業者」と言うとしており、銀行や信用金庫、信用組合、労働金庫などは該当しないとしております。
ファクタリングに関する裁判例
違法な偽装ファクタリング業に当たらないかが争点となった事例として、次のような著名な裁判例が挙げられます。大阪地裁は、金銭消費貸借であれば利息制限法の制限の範囲でしか利益を得られないところ、債権の買い主はそれを上回る利益得ており、それを正当化するには相応の債権回収のリスクを負っているべきである。しかし買い主はそのようなリスクを負っていない。また債権のうち一定額のみを買い取るなど額面とは関係のない金員の授受があった。売り主は会社に債権譲渡通知が発送されてしまうという不利益を回避するため買い戻しを行わざるをえない、などの点から金銭消費貸借契約に準じるものとして利息制限法1条が類推適用されるとしました(大阪地裁平成29年3月3日)。消費貸借なのか債権売買に過ぎないのかについて、多額の利益に見合ったリスクを負っていないことや、債権の全額を買い取っていないことなどから実質は消費貸借と判断したものと言えます。
コメント
本件で被告側は、客にとっては債権の買い戻しは義務ではなく貸付には当たらないと反論していたところ、最高裁は、売り主は勤務先に知られないため事実上債権を買い戻さざるを得ない点を指摘し、実質的には返済の合意がある金銭の貸付と同じと判断しました。上記裁判例と同様に事実上買い戻さなければならない状況や、利息制限法の規制を超える暴利を得るだけのリスクを負っていないことなども考慮されたのではないかと考えられます。以上のように近年貸金業法や利息制限法などを潜脱する偽装ファクタリングが問題化しており、金融庁も注意を呼びかけております。本来ファクタリング業自体はなんら問題のない資金調達手段と言えますが、実質は消費貸借である場合は貸金業法の規制を受けることとなります。自社の従業員がこのような違法業者に給与債権を廉価で譲渡していないか、今一度確認し周知していくことが重要と言えるでしょう。
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