「地球の歩き方」譲渡の決議は適法、東京地裁が判断
2023/02/28 商事法務, 総会対応, 会社法
はじめに
国内外の旅行先を紹介するガイドブック「地球の歩き方」に関する訴訟が終結しました。
2021年3月10日、「地球の歩き方」をはじめとする出版事業の譲渡決議は違法だとして、株式会社ダイヤモンド・ビッグ社の元社長ら3人が、同社および親会社である株式会社ダイヤモンド社に対して、決議取り消しや損害賠償を求めた訴訟を東京地方裁判所に提起していました。これに対し、東京地裁は21日、株主総会の招集手続きや決議方法に関し、「法令に違反し、著しく不公正であると認めることはできない」として、元社長らの請求を退けました。
訴訟までの経緯
今回、なぜ、ダイヤモンド・ビッグ社が元社長らとの間で訴訟に至ったのでしょうか。そこには新型コロナウイルスの感染拡大が大きく関わっていました。
ダイヤモンド・ビッグ社は、昭和44年の設立以降、「地球の歩き方」をはじめ、海外旅行ガイドブックの出版を中心に事業を展開してきました。特に地球の歩き方は主要コンテンツで、海外旅行に行く前の下調べから、現地でのお供として多くの人に頼りにされることでも知られています。
しかし2020年、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大をを機に、海外旅行はもちろんのこと、国内旅行も大幅に減少しました。
こうした事業環境の劇的な変化を受け、事業の維持と発展を図るべく、ダイヤモンド・ビッグ社は、2020年11月に株式会社学研ホールディングスの100%子会社である株式会社学研プラスとの間で出版事業の事業譲渡契約を締結することになったといいます。
この事業譲渡を受け、現在では、「地球の歩き方」は、株式会社Gakken(株式会社学研教育みらいが“学研プラス”を含む4社を合併した後、社名変更)が運営しています。
当社子会社(株式会社ダイヤモンド・ビッグ社)の事業譲渡に関するお知らせ
本件事業譲渡に先立ち、ダイヤモンド・ビッグ社は2020年12月に臨時株主総会を開催しました。今回、原告となった元社長らは、「地球の歩き方」の創刊時(1979年)から出版に関わっており、株主として参加した同臨時株主総会で、事業譲渡に反対の意を示しましたが、株式の大半を保有するダイヤモンド社の賛成もあり、譲渡承認が決議されました。
元社長らは、譲渡理由や譲渡内容について詳細説明を求めたにも関わらず、ダイヤモンド・ビッグ社が一方的に議事を打ち切ったとして、2021年3月10日、決議方法の違法等を理由に決議取り消しなどの訴えを東京地裁に提起していました。
株主総会決議取消し
会社法では株主総会の招集の手続または決議の方法が法令もしくは定款に違反した場合、または株主総会の決議の内容が定款に違反したり、株主総会の決議を、特別の利害関係を有する株主が議決権を行使したことで著しく不当な決議がされた場合に訴訟を提起できる旨定めています。
・「株主総会決議取消しの訴え」(会社法831条1項)
・「株主総会決議無効確認の訴え」(会社法831条2項)
・「株主総会決議不存在確認の訴え」(会社法830条1項)
株主総会決議取消しの訴えは、決議の日から3ヶ月以内であれば、その会社の株主、取締役、監査役、執行役または清算人が訴えをすることができます。
株主総会の招集手続、決議方法の違反の具体例としては、
・招集通知の期限遵守されていない
・株主名簿の書換を不当に拒絶
・招集通知に記載の無い事項について決議された
・総会時の取締役の説明義務違反
などが挙げられます。
コメント
元社長らは、2021年3月の提訴直後の会見で「長い時間をかけて築き上げたブランド価値を、何の説明もなく譲渡した責任を裁判で明らかにしたい」と表明していました。創刊から40年超にわたり手塩にかけて来た事業ということで、思い入れは人一倍あったと想像されます。
株主総会における取締役の説明義務の程度としては、「平均的な株主が決議事項について合理的な理解及び判断を行い得る程度の説明(東京地裁平成16年5月13日)」が求められるとされています。
総会で具体的にどのようなやり取りがあったかは明らかにされていませんが、ダイヤモンド・ビッグ社の説明が、事業への思い入れが人一倍あった原告らの納得を得られるものではなかった一方、平均的な株主が合理的な理解及び判断を行うのには十分なものであったと裁判所が判断したものと考えられます。
法務として、後日の決議取り消しを回避するため、どの範囲で説明を行うかの線引きを見出すことも重要ですが、訴訟に勝利したとしても、長らく事業発展に貢献して来たメンバーとの軋轢は、なんとも言えない後味の悪さが残ります。また、訴訟に要する時間と費用も小さくないコストとなります。総会に至る前段階での十分な対話・説明の重要性を再認識する事例となりました。
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