集配センター殺人事件の遺族がヤマト運輸に1億1000万円の損害賠償請求
2023/05/16 労務法務, 労働法全般
はじめに
クロネコヤマトの宅急便で知られるヤマト運輸株式会社。そのヤマト運輸の配送センター(兵庫県神戸市)で、2020年10月6日、男女2人の従業員が元パート従業員に包丁で刺され、死傷する事件が発生しました。この事件に関して、亡くなった女性の遺族が約1億1000万円の損害賠償を求め会社を提訴したということです。
事件の経緯
報道などによりますと、受刑者は2020年10月5日朝、男性従業員(60代)から「荷物の仕分け作業が雑だ」と注意されたことに腹を立て、取っ組み合いになりかけたといいます。喧嘩は、女性従業員(当時47歳)が仲裁に入ったことで一旦止まりましたが、その際、受刑者が振り回した手が女性従業員に当たり負傷。以前から受刑者の勤務態度が問題視されていた中、ヤマト運輸側はこの暴力沙汰を決定的な理由として即日、懲戒解雇を通知したといいます。受刑者はヤマト運輸で2年半ほど勤務していました。
翌日6日午前4時過ぎ、受刑者は配送センターに押しかけ、包丁を手に出勤直後の女性従業員と男性従業員を襲撃。女性従業員はその場で死亡、負傷しながら必死に逃げた男性従業員の通報により、受刑者は逮捕されました。
受刑者は、犯行の動機として、「被害者2名が結託して自分を解雇に追い込んだことに恨みを抱いた」旨供述したとされています。
今年1月、最高裁判所は上告を棄却。懲役27年とした一審・二審の判決が確定しました。
そして、今回、殺害された女性従業員の夫や子どもなど遺族4人が、この事件に関し、会社側の対応に過失があったとして約1億1000万円の損害賠償を求める訴訟を提起しました。
事件前日、喧嘩の仲裁に入った女性従業員が負傷した際、上司は女性従業員に対し、警察へ行き被害届を出すよう促したといいます。その背景には、この暴力沙汰を懲戒解雇の決定的理由にしたいヤマト運輸側の思惑があったと囁かれています。
女性従業員は神戸北警察署を訪れ相談したとされていますが、手が当たったのは故意でなかったこと、普段から受刑者と関係が悪くなかったことなどから被害届は出さなかったといいます。
遺族側は、受刑者を解雇したいと考えていた上司が、女性従業員が自らすすんで警察に相談したかのような印象を与える言い方で解雇を通告し、これが受刑者の逆恨みを招いたと主張。上司の言動が受刑者の逆恨みを招いたにもかかわらず、会社側が女性の安全を保障する注意義務を怠ったと指摘しています。
従業員同士のトラブルについて
今回の事件の発端は、従業員同士のトラブルにありました。では、従業員同士のトラブルが起きた際に、会社としてどのような対応を行うべきでしょうか。以下の4つのポイントが挙げられます。
(1)内部調査の実施
トラブルが発生した場合、まずは何が起こったのか事実を認定する必要があります。そのために、企業はまず、トラブルの内容や登場人物、開始時期などを調査し、公平かつ中立的に情報を収集しなければなりません。また、場合によっては関係者への聴取や証拠の収集なども行います。
(2)対話と調停の機会の提供
もしトラブルの度合いが低く、当事者同士の対面が可能な場合、会社として対話や調停の機会を提供することが有効になります。当事者同士の意見交換により解決策や妥協点を見つけることが期待できるためです。ただし、トラブルの内容によっては、顔を合わせることが望ましくない場合もあります。調査で把握した内容をもとに、慎重に進めることが大切です。
(3)労働環境の改善と支援策
上述の対話と調停により、解決の道筋が見えてきた場合、企業は労働環境の改善を検討し、当事者へ専門的なカウンセリング・コーチングを受けさせるなどの支援策を考える必要があります。
(4)再発防止
企業は再発防止のため、必要に応じて、明確な行動規範や紛争解決手続きに関するガイドラインを整備し、従業員に周知徹底させることが重要です。また、報告しやすい環境や迅速な問題解決の制度を整えることも効果的です。
コメント
今回の訴訟提起を受け、ヤマト運輸側は、「退職通知が殺害行為をもたらすことを事前に予見することは不可能であった」として、請求の棄却を求めているといいます。
一般的に懲戒解雇にあたっては、まず、「解雇事由が満たされているか」という法的な観点から慎重に検討することが求められます。しかし、仮に法的に正当な懲戒解雇であったとしても、解雇された本人から強い恨みを抱かれる可能性は否めません。そのため、退職通知の伝え方には慎重な検討が必要です。
退職を通知した上司や関係者に恨みの矛先が向かわないよう、客観的かつ正確な事実を伝え、特定の個人の意思が反映されたわけではなく会社としての意思であると明確に示すことが重要になります。
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