SMBC日興証券相場操縦事件、初公判で全被告が起訴事実否認
2023/05/30 金融法務, コンプライアンス, 金融商品取引法
はじめに
昨年、SMBC日興証券株式会社の幹部らが金融商品取引法違反の罪で逮捕されるという前代未聞のニュースが世間を駆け巡りました。5月24日、同事件の初公判が東京地方裁判所で開かれ、元副社長を含む元幹部ら5人はいずれも起訴事実を否認しました。
事件の概要
SMBC日興証券の元幹部らは、2021年4月までの1年3か月の間、特定の10銘柄について株価を維持するべく、大量に買い付けるなど不正な株取引を行ったとして金融商品取引法違反の相場操縦の罪で逮捕・起訴されていました。
報道などによりますと、検察側は「大株主からまとまった株を買い取り投資家に転売する『ブロックオファー』と呼ばれる取り引きで、株価が大幅に下落することを懸念した元部長らは、相場を安定させる目的で大量の株の買い付けを行った。このことについて元副社長らにも報告していた」と、大株主が安値を嫌って取引を中止するのを防ぐ目的で、株価を維持するために共謀したと指摘しました。
この事件では、すでに法人としてのSMBC日興証券にもペナルティが科せられていて、罰金7億円と追徴金およそ44億7000万円の支払いが命じられています。また、株式の運用などを行うエクイティ本部の元副本部長に懲役1年6ヶ月、執行猶予3年が言い渡されています。
ブロックオファーとは?
ブロックオファーとは、証券会社が大株主から一括で株式を買い取り、取引時間外に投資家に割安価格で売却する取引方法をいいます。具体的な手順としては、大株主が証券会社に株式の売却意向を伝え、市場が閉じた後、証券会社が投資家に株の購入を勧めます。そして、翌日の市場が閉じた後に株式の取引が行われます。
■ブロックオファー、それぞれの当事者のメリット
・大株主は市場での大量売却による株価の下落を回避し、安定した資金調達が可能です。
・投資家は割安価格で株式を購入できます。また、ブロックオファーでは、通常は委託手数料が発生しません。
・証券会社は大株主からの購入価格と投資家への売却価格の差額で差益を得ることができます。
■ブロックオファーのデメリット
・取引前に大量の売却の予測が広まると株価の下落を招く可能性
・大株主が損失を被った場合には、ブロックオファー自体にも影響が及ぶ可能性
ブロックオファーと相場操縦の関係性
上述のように、ブロックオファーでは、投資家は市場外で割安価格で株式を購入できます。そのため、ブロックオファーの噂が漏れた場合、市場における終値の価格は下がる傾向にあります。
一方で、ブロックオファーでは、証券会社が終値を基準に買い取り価格と売却価格を設定するため、終値が下がり過ぎた場合、大株主が取引を成立させないおそれがあります。また、買い取り価格と売却価格が低くなることで、仮に取引が成立した場合でも、証券会社が得る利益が減ることになります。
そのため、証券会社の立場では、終値の大幅下落を回避するため“株価が安定している状態”が望ましいことになります。
しかし、需給関係で成立するべき株式の市場価格を人為的に操作することは、「相場操縦」として、金融商品取引法で厳しく禁止されています。そのため、株価を安定させるため、証券会社が特定の銘柄について大量の買い注文を入れ、買い支えることは法的に許されていません。
相場操縦を行うことのリスク
では、相場操縦を行った場合、どのようなペナルティを負うことになるのでしょうか。
1.刑事罰
刑罰の範囲は違反行為の重大性や被害の程度によって異なりますが、相場操縦によって有価証券等の相場を変動又は固定させた場合、個人として懲役10年以下または罰金1,000万円以下(利益獲得目的のときには3,000万円以下)、法人罰金7億円以下に処せられる可能性があります。
2.金融庁からの処分
金融庁より、取引の禁止や制限が科せられることがあり、一定期間内または永久的に金融商品の取引を行うことが制約されます。
3.証券会社からの処分
証券会社より、過怠金の支払いや、株式などの売買の停止などを命じられるおそれがあります。
(今回のSMBC日興証券のケースでは過怠金3億円、5日間の売買停止が命じられています。)
4.損害賠償
相場操縦によって他の投資家や市場参加者が損害を被った場合、被害者は民事訴訟を提起して損害賠償を求めることができます。そのため、場合によっては違反者が損害賠償を支払うことが求められることがあります。
コメント
既に法人としてのSMBC日興証券および一人の社員に対し有罪判決が出ている今回の事件。行った行為が「株価の操作にあたるのか」、「元幹部らの間に共謀関係があったのか」などが争点となりそうです。訴訟の今後の行方から目が離せません。
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