スシロー、迷惑動画の少年に6700万円の損害賠償請求訴訟
2023/06/12 訴訟対応, 民法・商法, 外食
はじめに
年明けに世間を呆れさせた、迷惑客の動画。大手回転寿司チェーンのスシローに来店した客が、醤油さしや湯呑みを舌でなめるなどの迷惑行為を行い、その様子を捉えた動画がSNS上で拡散されました。一時、スシローへの客足が遠のいたほか、株価にも大きな影響がありました。一連の迷惑行為を受けて、3月22日、スシローの運営会社、株式会社あきんどスシローが、迷惑客を相手取り約6,700万円の損害賠償を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起していたことがわかりました。
事案の概要
スシローの発表によりますと、動画が撮影されたのは岐阜市内の店舗で、今年1月3日のことです。動画では、少年が醤油のボトルや湯飲みをなめたり、口に入れたあとの指で回ってきた寿司を突くなどの迷惑行為が撮影され、拡散されました。
動画の内容を受けて、スシローは、1月30日の開店前に全ての湯飲みの洗浄と、しょうゆボトルの入れ替えを行ったといいます。また、迷惑動画の撮影された店舗とその近隣店舗においては、食器類、調味料等の置き場を店内に設置し、客自身で取り、テーブルまで持っていくよう対応を変更しているほか、テーブル席と提供レーンの間に一部アクリル板の設置を予定しているとしています。さらに、2月3日には、注文された商品のみをレーンに流す「完全注文制」に一時的に切り替える旨の発表を行いました。
迷惑行為を行った少年とその保護者からは1月31日に直接謝罪を受けたといいますが、動画の影響は大きく広がり、来店客が大幅に減少しただけでなく、親会社の株式の時価総額が一時、160億円以上下落したとされています。
こうした背景から、スシローは3月22日、「全国600以上のスシロー店舗の衛生管理に疑念を生じさせ、多くの客に著しい不快感を与え、客足を遠のかせた」として、本来得られるはずであった売上分や、株価下落・会社の信用低下に伴う損害賠償として、約6,700万円の支払いを求めています。
これに対し、少年側は、
・動画は友人間の共有が目的で、拡散の意図はなく、また拡散される予想もしていなかった。
・拡散は少年やその様子を撮影した友人ではなく、インフルエンサーなどがきっかけだった。
・競争の激しい回転寿司業界において、客足の減少と迷惑行為との因果関係は明確とは言えない。
旨主張し、争う姿勢を見せているといいます。
なお、スシロー側は、上述のように、今後、アクリル板の設置などの対策も進めているそうで、損害が増える可能性があるとして、請求額の増額も匂わせているということです。
未成年者の不法行為と損害賠償責任
迷惑動画の撮影・投稿などの行為は、民法上の不法行為(民法第709条)にあたる場合が多く、加害者には損害賠償責任が課されます。一方で、今回、迷惑行為を行った少年は未成年者でした。
民法第712条では、「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。」として、未成年者で、なおかつ、責任能力がない場合には、不法行為による損害賠償責任を負わないとしています。
もっとも、過去の裁判例に照らすと、だいたい12~13歳以上の未成年者に対しては責任能力を認める傾向があるため、当時高校二年生だった今回の少年に対しても責任能力が認められる可能性が高いといえます。
しかし、その場合、少年の支払い能力が問題となります。そのため、被害者側としては親に対しても損害賠償責任を追及したいところです。
この点、民法第714条では、「責任無能力者の監督義務者等の責任」について規定されていますが、これは文字どおり、責任能力が認められない未成年等を監督する立場にある者(親など)の責任を定めたものです。未成年者に責任能力が認められる場合には、原則として親は損害賠償責任を負わないと考えられます。
そのため、仮に今回の訴訟で少年の損害賠償責任が認められた場合でも、スシローは基本的には、親には支払いを求められず、少年自身に対し支払いを求める(主に、就職等で収入を得始めたときに支払いを求める)形になりそうです。
【例外】第714条の監督責任ではなく第709条の一般不法行為責任を負うケース
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コメント
スシローは、今回、6,7000万円余りの請求を行っていますが、迷惑行為と売り上げ減少や株価下落との因果関係の立証が難しいとされており、損害として認定されるのは数十万円程度に留まるのではと考察する有識者もいます。
一方で、これまで飲食店での迷惑行為について民事裁判の例が少なく、立証の困難さや企業イメージ悪化への懸念などを理由に泣き寝入りをしてきた企業が多かったと考えられます。こうした現状を受け、スシローは、あえて公に厳正に対処することで、飲食店が被る損害の深刻さを広く伝えたいとの意図で提訴に至ったと推測されます。
スシロー側はどのような着地点を頭に描きながら、今回の訴訟を進行していくつもりなのか。今後の動向から目が離せません。
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