震災を口実にした緊急解雇は許されるか?
2011/04/18 労務法務, 労働法全般, その他
震災を口実にした緊急解雇は許されるか?
東日本大震災で会社や工場が全壊した事業主が、その従業員を緊急解雇するケースが増えているそうだ。
しかし、労働基準法には、従業員の解雇には、30日以上前に解雇予告が必要とうたわれている。果たして、震災を口実に従業員を緊急解雇することは許されるのか。
【労働基準法第20条】
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
問題の所在
労働基準法第20条但書では、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合には、解雇予告をすることなく、即座に解雇することができると定められている。しかし、これは、事業主が労基署に申請をして、天災により事業の継続が不可能であると認定された場合に限られている(同法第20条3項、19条2項)。
震災で、会社や工場が全壊した事業主は、このような手続きを経ることなく、解雇を行っているケースがほとんどであるが、天災で行政機関がなかなか機能せず、また、交通機関の麻痺により事業主の移動もままならない現状にあっても、このような手続きが要求されるのかは難しい問題である。
雑感
個人的には、今回のように、労基署への申請が困難な状況下であっても、労基署の認定がない限りは、解雇予告のない解雇は許されないのではと考えている。
このように考えた場合、解雇を行いたい事業主は、30日分以上の平均賃金を解雇対象の従業員に支払うか(労働基準法20条)、労基署の認定が下りる日まで、従業員に給料を支払い続けなければならなくなるという不都合が出て来るだろうが、一方で、労基署の認定がなくとも、緊急解雇が許されるとすれば、事業の継続に問題がないのに便乗解雇を行う事業主が出てくることが予想されるのであり、このような便乗解雇のあおりを受ける従業員の受ける損害はかなり重大なものとなる。実際、愛知、岐阜、三重、静岡などの地域には各種大手メーカーがひしめくが、これらの企業は震災の被害を直接受けたわけでもないにも関わらず、震災以降、従業員を解雇するケースが増えているそうだ。
どの範囲の事業主に特例を認めて労基署の認定なしの緊急解雇を許すかを明確にしない限り、このような懸念はやむことはないだろうが、実際問題、これにはかなりの困難を要するだろう。
緊急事態下では、法律を厳格に適用することが必ずしも国民のためにならない場合もあるが、今回は、原則通りに法律を適用すべきであると私は考える。皆さんは、どのように考えるだろうか。
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