消費者団体が脱毛エステ店を提訴、特定商取引法の規制について
2023/09/04 コンプライアンス, 広告法務, 特定商取引法
はじめに
回数無制限のアフターサービスをうたって客を集めていた脱毛エステ店が、その後内容を変更したのは不当であるとして適格消費者団体が大阪地裁に提訴していたことがわかりました。会社側はすでに廃業しているとのことです。今回は特定商取引法の規制について見ていきます。
事案の概要
消費者団体の発表などによりますと、脱毛エステサロンを運営していた「株式会社ラドルチェ」(大阪市北区)はアフターサービスとして回数・期間無制限で施術を受けられるエステティックサービス契約を行っていたところ、2022年1月ころ、対象消費者の同意を得ること無く「アフターサービス施術をセルフサービス施術へと移行させて頂く事としました」旨の告知をし、一方的に契約内容を変更したとされます。また契約書には中途解約のついて利用者に不利な内容が記載されていたり、重要事項の記載が無いなど不備があったとのことです。これに対し会社側は、アフターサービスはあくまで「サービス」であるから会社の意向で変更することは問題ないとしております。
特定継続的役務と事業者の義務
特定商取引法の対象となる「特定継続的役務提供」とは、「役務の提供を受ける者の身体の美化、知識・技能の向上などの目的を実現させることをもって誘引されるが、その目的の実現が確実でないという特徴を持つ有償の役務」の提供を意味するとされます(特商法41条)。具体的にはエステサロン、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室、結婚相手紹介サービスなどとされます。そしてこのような特定継続的役務提供事業者は契約の際に消費者に書面を交付する義務を負います(42条)。書面には(1)事業者の名称、住所、電話番号、代表者の氏名、(2)役務の内容、(3)購入が必要な商品がある場合はその内容と数量、(4)役務の対価、(5)支払い時期と方法、(6)役務の提供期間、(7)クーリングオフに関する事項、(8)中途解約に関する事項、(9)割賦販売法に基づく抗弁権に関する事項、(10)前受金の保全に関する事項、(11)特約などを記載することが求められております。また前払方式で5万円を超える役務提供を行う場合、事業者の財務内容などについて消費者が確認できるよう計算書類等の備え置きも義務付けられます(45条)。
禁止事項
特定継続的役務提供事業者にはいくつか禁止事項が定められており、(1)契約締結について勧誘を行う際、または契約解除を妨げるために事実と違うことを告げること、(2)勧誘の際に故意に事実を告げないこと、(3)契約を締結させ、または契約解除を妨げるために威迫して困惑させることが禁止されます(44条)。また著しく事実に相違する表示や実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような、いわゆる誇大広告等が禁止されております(43条)。これらに違反した場合には行政処分として業務改善の指示(46条1項)や業務停止命令(47条1項前段)、役員等の業務禁止命令(47条の2第1項)が出される場合があり、これらの命令に違反した場合は罰則として3年以下の懲役、300万円以下の罰金またはこれらの併科となっております(70条3号)。
クーリングオフ等
特定継続的役務提供の契約を締結された場合でも、消費者が法律で定められた書面を受け取った日から数えて8日以内であれば、消費者は事業者に対して書面または電磁的記録で契約を解除することができます(48条)。事業者が事実と違うことを告げたり、威迫し、消費者が誤認・困惑してクーリングオフしなかった場合は、期間経過後もクーリングオフ可能です。事業者が交付した書面に重要な事項の記載漏れがあるなど不備があった場合は、不備のない書面が交付されるまでクーリングオフ期間は起算されないとされます。また消費者がクーリングオフ期間経過後に中途解約した場合、事業者が消費者に請求できる損害賠償額には制限が設けられております(49条)。たとえばエステでは2万円または契約残額の10%のいずれか低い額となっております。さらに事業者が勧誘の際に事実と違うことを告げていた場合や故意に事実を告げていなかった場合は契約を取り消すことができます(49条の2)。
コメント
本件で訴状によりますと、株式会社ラドルチェは回数無制限で受けられるとしていたアフターサービスを一方的に変更したとされます。無制限のアフターサービスは本来的な給付内容となっており、それが一方的に変更される可能性がある場合はその旨書面に記載しておかなければならず、また中途解約についても記載の不備があったとされます。適格消費者団体は契約者が支払った代金相当額を不当利得として返還義務を負うことの確認を求めております。以上のようにエステや美容、英会話教室など特定継続的役務提供を行う際には特商法の規制が適用されます。特に書面の交付は重要で、記載に不備があった場合はクーリングオフ期間も進まないこととなります。自社の事業に適用されないか、また契約書などに不備はないか確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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