引越のサカイに1570万円の支払い命令、出来高払制とは
2023/09/13 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般
はじめに
サカイ引越センターの元引越し作業員兼ドライバー3名が未払い賃金の支払いなどを求めていた訴訟で、東京地裁立川支部は8月、同社に計約1570万円の支払いを命じていたことがわかりました。出来高払賃金制に該当しないとのことです。今回は労基法の出来高払制について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、サカイ引越センター(堺市)では作業量に応じた業績給が採用されており、給与の大部分を占めているとされます。同社では基本給は6万円となっており、業績給として売上額や引越件数、ピアノ運搬、応援作業等、車両整備等などに応じて出来高払制が採用されているとのことです。同社で引越運送業務に従事していた20代後半~30代前半の元従業員3名が、同社の業績給を出来高払制として扱うのは違法であり、未払い残業代があるとして計約1200万円の支払いを求め提訴しておりました。
出来高払制とは
出来高払制とは、従業員が販売した金額や、製造した物の量などの成果に応じて賃金の額を決定する制度を言うとされます。生命保険やタクシー運転手、建設業などで広く採用されているとされ、歩合給と呼ばれることもあります。出来高払制は成果に応じて賃金が決まることから、会社側にとっては無駄がなく、また労働者にとっても成果が上がれば収入も上がることから業務に対するインセンティブが与えられるというメリットがあります。一方で思うような成果が上がらなかったり、成果が0といった場合には極端に収入が減少してしまい、生活が不安定になるといったデメリットも指摘されております。そこで労働基準法では出来高払制に対し一定の規制を定めております。以下具体的に見ていきます。
労基法上の規制
労働基準法27条では、「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」とされております。この保障給は労働時間あたりで定める必要があり、その額は具体的には法定されておりませんが、休業手当に準じて平均賃金の6割が目安と考えられております。また厚労省通達では、常に通常の実収賃金と余り隔たらない程度の収入が保障されるように保障給の額を定めることとされております。つまり月に何円という固定給で定めるのではなく、労働時間1時間あたり何円という時間給で定め、就業規則や労働契約に記載しておく必要があるということです。なおこの保障給は出来高払給の割合が賃金総額の4割未満であるときは支払う必要はないと考えられております。このような場合は労働者に与える影響が小さいためです。また出来高払制を採用する場合でも最低賃金法が適用され、1ヶ月の平均所定労働時間で給与を割った際、最低賃金を下回っている場合は違法となります。
労基法の付加金制度
労基法114条では、使用者が労働者に一定の金銭を支払っていない場合に、労働者の請求により裁判所がその額と同一額の支払いを命じることができる制度です。付加金の対象は、解雇予告手当(20条)、休業手当(26条)、時間外・休日・深夜割増賃金(37条)、有給休暇の賃金(39条7項)となっております。これらの未払い分を労働者が訴訟によって請求する際、同一額を付加金として請求することができます。同一額と言っても付加金額は様々な事情を総合考慮して決められることから必ずしも同一の額にはならないとされております。出来高払賃金が違法となり未払い残業代が発生する場合も対象となります。なお出来高払制の保障給を支払わない場合は罰則として30万円以下の罰金となります(120条1項)。
コメント
本件で東京地裁立川支部は、出来高払賃金制を「作業量などの成果に応じて一定比率でさだめられるもの」定義した上で、同社の業績給の一部は営業担当と顧客の交渉で決まっているもので作業員は会社から指示された作業をしているだけとし、自助努力が反映されているとは言い難いとして出来高払制に該当しないとしました。未払い残業代として計約950万円、付加金として約620万円の支払いを命じました。以上のように出来高払制(歩合制)には一定の規制が置かれており、また本件のように労働者の努力によって成果を上げることができない場合は出来高払と認められないこともありえます。運輸業界では同制度は広く取り入れられていることから本件判決の影響は大きく、今後の控訴審が注目されます。出来高払制を採用している場合は、これらの要件などを今一度確認し直しておくことが重要と言えるでしょう。
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