補助金3.7億円を返還せず、イチゴ栽培施設建設業者を高島市が提訴
2023/09/21 契約法務, 行政対応, 建設, ライフサイエンス・アグリビジネス
はじめに
“イチゴで町おこし”を。滋賀県高島市は町おこしの一環として、2022年6月、同市でイチゴ栽培施設の建設を計画していた株式会社風車に対し、施設の建設工事費用の一部を市の補助金でいったん肩代わりしていました。風車の建設計画に対しては、工事完了後に国の補助金が交付される予定でしたが、工事が期限までに終わらず、国は補助金交付決定を取り消しました。これを受けて、市は補助金の返還を風車に求めたものの、支払いに応じなかったことから、9月11日、同社に対し、市が支払った補助金約3億7000万円および延滞金の支払いを求め、津地方裁判所に提訴しました。
工事完了予定日なのに更地
今回問題となったイチゴ栽培施設整備事業は、農林水産省の「農産物等輸出拡大施設整備事業」の一環で進められており、「道の駅しんあさひ風車村」に隣接する農地約2万3240平方メートルの農地に、イチゴ栽培の生産技術高度化施設3棟を整備するというものでした。風車の提出した事業計画によると、整備後の施設では苗から育て上げ、栽培した付加価値のある白イチゴをシンガポール、タイ、香港に輸出する予定でした。
報道などによりますと、総事業費は約16億4800万円で、事業完成後に国の補助金として約7億4900万円が交付されることになっていました。このように、国の補助金事業は、基本的に事後支給となっていますが、事情があれば自治体が代わりに先払いをするケースもあります。そのため、風車は、高島市に対し工事等にかかる費用の“概算払い”の請求を行い、市は2022年6月、市の補助金等交付規則に基づいて、会社に対して約3億7000万円を支払い、肩代わりする形となりました。
工事は、風車が実施した一般競争入札で決まった横浜市の業者により開始されましたが、市は、今年1月時点で工事が進んでいないことを確認。これに対し、風車は、「新型コロナウイルスによる物価高騰や半導体などの資材不足を理由に、期間内に事業の完成が見込めなくなった」と説明したといいます。
そこで、高島市は3月14日、国に対し、事故繰越承認申請をしましたが、「国の基準による天災などの避けがたい要因とする事故繰越とは認められない」との回答を受け、4月には国の補助金交付決定が取り消されました。
その時点でも土地はほぼ更地の状態で、風車は高島市に対し補助金交付申請の取り下げを申請、受理されました。その後、市は、5月9日付で補助金返還命令書を風車に送付して補助金の返還を求めましたが、6月の督促期限を過ぎても、補助金は返還されず、風車を提訴するに至ったということです。
高島市と風車は連絡自体は取れているそうで、風車からの説明では、補助金を返す意思があり、イチゴ栽培施設の建設も完了させると話しているということです。
工期が遅れた場合、請負契約上の責任は誰に?
今回、問題となった施工業者による工期遅れ。もともと、“工期”とは、建築工事の着工から竣工、完成までの期間をさしますが、工期遅れが生じてしまった場合には、施設稼働の遅延やサービス開始の後ろ倒し、取引先に対する履行遅滞などによる損害が生じるおそれがあります。さらに、今回のように補助金の交付が絡んだ場合には、工期遅れが原因で補助金交付決定が取消しとなるケースもあります。そのため、建物を建築する上で、工期は施主側にとって非常に重要なものとなります。
工期遅れが生じる主な原因としては、天候不順・職人などの人手不足・資材不足などが挙げられます(今回のイチゴ栽培施設においても、資材不足が原因だといわれています)。そして、工期遅れの契約上の責任の所在は、遅延の理由により異なります。
○施工業者側の責任となる例
・職人、人手不足
・施工ミスなどで修繕を行なった
○施主側の責任となる例
・追加工事を依頼した
・請負代金の支払いが遅延した
○どちらの責任でもない例
・天候不順
・資材不足
なお、一般的に、施工業者と施主との間では、工期遅れによる損害に対し、建築請負契約内で賠償額についてルールが定められていることが多いといいます。
コメント
昨今、世界中で叫ばれている資材不足。受け取り予定日から大幅に遅れて資材が到着するケースも珍しくありません。建設中の施設の規模が大きい場合、大量の資材を必要とする分、資材不足がもたらす影響は一層大きいものとなると想像されます。
施主の立場で工事を依頼する際は、施工業者のリソース、資材の量、資材の調達難易度、補助金の交付条件などに照らし合わせながら、慎重に工期を組む必要があります。
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