不利益取扱いで特養経営法人の理事長を書類送検 ー真岡労基署(栃木)
2024/03/05 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般
はじめに
労基署に未払い賃金の申告をしたことを理由に職員を解雇したなどとして、真岡労基署は1日、社会福祉法人「萌丘厚生会」(真岡市)と理事長を書類送検していたことがわかりました。同容疑での送検は県内で初とのことです。今回は労働基準法の不利益取扱い禁止規定について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、萌丘厚生会は2023年3月1日~6月30日までの間、時間外・休日労働に関する三六協定を締結せずに従業員11人に1日8時間を超える時間外労働をさせていた他、2人に1週間で40時間を超える時間外労働をさせていた疑いがあるとされます。また労基署に未払い賃金について申告をしたことを理由に女性職員を解雇し、不利益な取り扱いをした疑いがあるとのことです。これを受け真岡労基署は同会と理事長を労働基準法違反の疑いで書類送検しました。労基署によるとこのような容疑での書類送検は県内で初めてとのことです。
不利益取扱いの禁止
労働基準法104条1項によりますと、「事業場に、この法律又はこの法律に基づいて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる」としており、同2項では「使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他の不利益な取扱をしてはならない」としております。さらに136条では「有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない」としております。104条2項に違反した場合には、罰則として6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が規定されております。なお136条違反については罰則は規定されておりません。
不利益取扱いとは
それでは不利益取扱いとは具体的にどのような行為を言うのでしょうか。厚生労働省の告示(平成21年厚労省告示509号)によりますと、(1)解雇、(2)期間雇用労働者の契約を更新しないこと、(3)契約更新上限が明示されている場合に回数を引き下げること、(4)正社員を非正規社員に変更すること、(5)自宅待機を命じること、(6)その意に反して時間外労働・深夜業の制限短縮すること、(7)降格させること、(8)昇進・昇格の人事考課で不利益な評価を行うこと、(9)不利益な配置変更、(10)減給または賞与で不利益な算定を行うこと、(11)就業環境を害することなどが挙げられております。そしてその判断にあたっては、労働者が表面上同意していたとしても、労働者の真意に基づくものであるか、労務の不提供が無いにもかかわらず減給されているか、また人事評価で不利に評価しているかなどを考慮するとされます。このような場合は不利益取扱いと判断される可能性が高いと言えます。
その他の法令による規制
労働者が一定の行為をしたことなどを理由とする不利益取扱いの禁止規定は労基法以外の法令でも多く見られます。まず男女雇用機会均等法では育児休業を取得したことを理由とする不利益取扱いが禁止されております(9条3項、10条)。これは平成18年改正で明文化されたものです。また同法ではセクハラ・パワハラ等の相談を行なったことを理由とする不利益取扱いも禁止されます(11条2項)。労働組合法7条1項では、労働者が労働組合の組合員であること、加入しようとしたこと、または組合を結成しようとしたことその他労働組合の正当な行為をしたことを理由とする不利益取扱が禁止されております。これら以外でも公益通報をしたことを理由とする不利益取扱いを禁止する公益通報者保護法3条や、障害者であることを理由とする不当な取扱を禁止する障害者雇用促進法35条など様々な法令で同様の規定が置かれております。
コメント
本件で萌丘厚生会は未払いの賃金について労基署に申告をしたことを理由に職員の女性を解雇した疑いが持たれております。事実であった場合、解雇は不利益取扱いの中でも最も重いものであることから労基法104条2項に違反する行為と言えます。以上のように労基法では会社の労基法等に違反する事実を申告・相談したことを理由とする解雇等不利益取扱が禁止されており、罰則も置かれております。上でも触れたように同様の規定はあらゆる法令に盛り込まれており、減給や配転の際に、それ以外に理由が認められない場合は不利益取扱いと判断される可能性が高いと言えます。これらの点を踏まえ、相談や通報をしても不利益取扱いをしないことを社内で明確化して周知し、従業員に相談等をしやすい職場環境を構築していくことが重要と言えるでしょう。
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