老人ホーム食中毒で営業禁止の給食業者、最低賃金法違反容疑で書類送検
2024/03/13 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 介護業界
給食事業者が最低賃金法違反容疑で書類送検
3月1日に岐阜県安八町の特別養護老人ホームなどに提供した給食で食中毒を引き起こし、営業禁止処分を受けていた給食提供業者が、今度は最低賃金法違反の疑いで書類送検されました。複数の従業員に賃金を支払っていなかったということです。
総額3000万円以上の賃金不払いか
報道などによりますと、給食提供事業を行う株式会社キッチンフーズ(岐阜市)と70歳の社長は、従業員6人の2023年2月分の賃金、合わせて約50万円を支払わなかったとして最低賃金法違反の疑いで書類送検されました。
支払いが行われなかった翌月、従業員から相談を受けた大垣労働基準監督署が捜査を開始。会社に対し、是正の要求を繰り返したものの、会社側はこれに従わなかったということです。この他にも従業員27人分の賃金不払いもあるとみられており、その総額は2023年1月から2024年2月にかけて、約3000万円にのぼるとみられています。
社長は労働監督署に対し、「取引先からの借入金の返済を優先した」などと話し、一連の賃金の不払いを認めているといいます。
今回、書類送検されたキッチンフーズを巡っては、今月1日、特別養護老人ホームの入居者や同施設に隣接するクリニックの入院患者など40人がキッチンフーズにより調理された食事を食べて、下痢やおう吐の症状を訴えていました。保健所は、患者や調理の担当者の便からノロウイルスが検出されたことなどから、給食を原因とするノロウイルスによる食中毒と判断。キッチンフーズに対し、3月4日から再発防止措置が講じられるまでの期間、食品衛生法に基づく営業禁止処分としました。
なお、食中毒被害にあった40人は、現在は回復傾向にあるということです。
最低賃金法について
今回の事件で問題となった最低賃金。最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者はその最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。
地域別に定められている最低賃金についての規定は強行規定となっており、仮に、会社と従業員間で「最低賃金額より低い賃金で働く」旨の合意が形成されていたとしても、法律上無効とされ、「最低賃金額と同額の賃金で働く」旨の合意がされたものとみなされます。そのため、最低賃金未満の賃金しか支払わなかった場合には、会社は、最低賃金額との差額を支払わなくてはなりません。
この最低賃金法は、正社員やアルバイトといった雇用形態や、障害の有無に関わらず、すべての労働者に適用される法律です。試用期間中の労働者であっても対象となるため、注意が必要です。
ちなみに、最低賃金には2種類あります。
①地域別最低賃金
都道府県ごとに定められている最低賃金。当該都道府県内で働くすべての労働者に適用されます。
②特定最低賃金
都道府県と業種ごとに定められている最低賃金。当該都道府県内の事業所で働く労働者のうち、特定の業種に従事する労働者に適用されます。
気を付けたいのは、「適用される最低賃金額は、いずれか高い方となる」という点です。
例えば、地域別最低賃金が1000円、特定最低賃金が900円の場合、地域別最低賃金が適用されます。また、もし事業所が複数ある場合には、その事業所がある都道府県のルールが適用されます。そのため、従業員が働く事業所の場所や職種によって適用される最低賃金が異なるケースもあり得ます。
不明点がある際には、管轄の労働局などに相談することが推奨されます。
コメント
今回、送検された社長は、借入金の返済を従業員の給与支払いよりも優先したとされていますが、最低賃金法の最低賃金についての規定に違反した場合、50万円以下の罰金が科される可能性があります(最低賃金法第9条、第40条)。
借入金の債権者と異なり、顔なじみの従業員ならば多少後回しにしても許されるという考えがあったのかもしれませんが、言うまでもなく、使用者と労働者は、労働力の提供と賃金の支払いにより成り立つ関係です。特に給与の支払いについては、労働者は法的に強い保護を受けるため、その意味では何よりも優先すべき支払いといえます。
また、最低賃金法違反は、行政指導の対象にもなる他、取引先その他のステークホルダーからの信頼の失墜や従業員のコンプライアンス意識の低下による不正・不祥事等にも繋がりかねません。さまざまなリスクが伴う賃金の問題を会社として真剣に考えていくことが必要です。
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