キリン、目黒蓮と成田悠輔の広告起用で明暗/タレントとの広告出演契約について
2024/03/19 契約法務, コンプライアンス, エンターテイメント
はじめに
飲料品メーカーのキリンは3月7日、男性アイドルグループSnow Manの目黒蓮さんとの間で直接、広告出演契約を締結したことを発表しました。
この発表に対し、インターネットを中心に歓迎の声が多くあがっています。
その一方で、同じキリンが広告に起用した経済学者の成田悠輔さんをめぐっては批判が殺到し、広告を削除する事態にまでなりました。その明暗はどこで分かれたのでしょうか?
キリン、旧ジャニーズの目黒蓮さんと直接契約へ
目黒蓮さんは男性アイドルグループSnow Manのメンバーで、旧ジャニーズ事務所である株式会社SMILE-UP.に所属しています。旧ジャニーズ事務所のタレントを巡っては、ジャニー喜多川氏による性加害報道が行われて以降、多くの企業で「問題が解決するまでは事務所との新規契約を行わない」とする方針を打ち出していました。その一方で、「所属する歌手や俳優に罪はない」とする世論もありました。
こうした中、キリンホールディングス株式会社は、3月7日、目黒さんと直接、広告出演契約を締結したことを発表しました。
キリンは今回の目黒さんの広告起用の理由として、
・目黒さんの誠実な人柄、俳優としての唯一無二の魅力、商品や当社のイメージとの親和性
・性加害問題に直接関与のないタレントに活躍の機会が与えられないことは、タレントの人権を尊重する観点で悪影響がある
といった点を挙げています。
目黒さんは、2023年6月から紅茶飲料のCMに出演していましたが、同CMを継続するほか、今後ビールの新製品のCMにも起用されるということです。
なお、キリンは「今回、旧ジャニーズ事務所に所属するタレントと契約したからといって問題が解決したとは思っていない」とし、企業としての再発防止も含む人権尊重の取り組みが実施され、有効に機能している状態になるまで新規契約を締結しないとの方針に変更はないとしています。
それもあり、目黒さんとの契約に当たっては、SMILE-UP.社と、タレントのマネジメントや育成業務を引き継ぐ株式会社STARTO ENTERTAINMENTの2社は関与しない形をとったとのことです。
目黒蓮さんとの広告に関する直接契約締結 及び 旧ジャニーズ事務所の性加害問題に対する当社の取り組みについて(キリンホールディングス株式会社)
一方で、経済学者の成田悠輔さんの広告起用では炎上
目黒さんとの直接契約が歓迎される一方、経済学者の成田悠輔さんを起用したキリンの広告に批判が集まり、3月12日に広告が削除される事態となりました。
成田さんが起用されたのはチューハイのウェブCMで、「時代を作るものは、いつだってシンプル」との広告コピーがついていました。
しかし、この広告が始まると、SNS上では批判が殺到。背景には成田さんが日本の少子高齢化問題について過去に語った「解決策は高齢者の集団自決しかない」という発言がありました。
発言自体は2021年に行われたものでしたが、当時、国内外のメディアで大きく取り上げられるなど、物議をかもした発言でした。
その成田さんの広告起用を受け、SNSでは「キリン不買運動」とハッシュタグを付けて批判する内容の投稿が相次ぎ、キリンは3月4日の掲載開始からわずか8日後に広告を削除しています。
チューハイのターゲット層は、主に若い世代とみられていますが、
・キリンが企業として高齢者福祉の活動を行っていること
・人権意識の高い国外ユーザーからの厳しい視線
なども、批判を加速させたとみられています。
注意したい、タレントとの広告出演契約
タレントのイメージに大きく引っ張られる、タレントとの広告出演契約。ユーザーの憧れを引き出し、信頼と共感の付与に役立つ一方で、広告タレントの不祥事などによる炎上リスクがつきまといます。
そのため、不祥事等によりタレントの好意度の急落がみられた場合、即座に広告の停止や契約解除などができるよう、広告出演契約の内容を事前に詰めておく必要があります。特に、「好意度の低下」の定義をめぐって、タレント側と企業側がトラブルになることが少なくないため、具体的にどのようなケースを「好意度の低下」とみなすのかのすり合わせが重要になります。
コメント
かつて、炎上と言えば、クレーム電話やハガキによるものが大半でしたが、現在はSNSでの発信により、炎上が見える化される時代となっています。そのため、見える化された炎上に共感した人が、さらに批判を重ねて炎上が広がるという構図が生まれています。
また、国内においてもユーザーの人権意識が高まっており、たとえ、その発言が自分たちに向けたものでなかったとしても、不適切な発言に対して強い拒否感を感じるユーザーが増えています。
企業がタレントを広告に起用する際、「商材のターゲットとなるユーザーにどう映るか」だけを検討するのではなく、ターゲット外のユーザーに対しても不適切な人選となっていないかという観点でも、検討を行う必要がありそうです。
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