「コミュ力低い」で解雇は無効、能力不足を理由とする解雇について
2024/04/30 労務法務, 労働法全般
はじめに
九州ゴルフ連盟(福岡市)の事務局員だった男性が解雇されたのは不当であるとして地位確認や未払賃金の支払いを求めていた訴訟で福岡地裁は24日、解雇を無効としました。「コミュ力不足」による解雇は無効とのことです。今回は能力不足を理由とする解雇について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告の男性は2018年から九州ゴルフ連盟の事務局員として働いていたところ、22年9月に「コミュニケーション能力が低い」などとして解雇されたとされます。男性は些細なことで不機嫌になり協調性に欠け、周囲への配慮に欠ける面があったとのことです。男性はこのような理由での解雇は不当であるとして同連盟に地位確認と未払賃金分の支払いを求め福岡地裁に提訴しておりました。
普通解雇の要件
普通解雇の要件については以前にも取り上げましたが、ここでも簡単に触れておきます。普通解雇とは従業員との合意によらず、会社側から一方的に従業員の身分を失わせる行為を言います。懲戒処分の一種である懲戒解雇とは区別されます。一般的に普通解雇が有効と認められるためには(1)就業規則に定める解雇事由に該当すること、(2)解雇事由が客観的に合理的であり、社会通念上相当であること、(3)30日前までの解雇予告または解雇予告手当を支払っていること、(4)法令上の解雇制限に当たらないことが必要です。整理解雇も普通解雇の一種とされますが、従業員ではなく会社側の都合による解雇であることからより厳格な要件・手続きの履践が求められております。
解雇事由の存在
上記のように普通解雇には就業規則に定める解雇事由の存在が必要です。この解雇事由には様々なものがあり、従業員の能力不足、無断欠勤、パワハラ、セクハラ、病気、精神疾患、協調性がない、命令違反、横領などの犯罪行為等が挙げられます。これらが就業規則などによってあらかじめ定められている必要があります。また労働契約法16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされております。これら解雇事由に該当するとしても、客観的合理性と社会通念上相当性が認められなければならないということです。またこの客観的合理性と社会通念上相当性は解雇事由それぞれで個別具体的な事案に即して判断されることとなり、要件を満たすかの判断は容易ではないと言えます。
能力不足に関する裁判例
能力不足を理由とする解雇に関する裁判例として、社内の各部署を転々と異動させられ、どこの部署でも仕事を与えられず最終的に解雇された事例が存在します。この事例では各部署で「与えられる仕事は無い、社内で仕事を探せ」などと言われ、意欲が感じられないなどとして仕事が見つからず退職勧奨を受けました。退職勧奨を受け入れなかったところ就業規則の「労働能率が劣り、向上の見込みがない」に該当するとして普通解雇となりました。これに対し裁判所は、就業規則の「労働能率が劣り、向上の見込みがない」とは平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みもないときでなければならないと限定的に解釈しました。そのうえで従業員の下位10%未満の考課であるものの相対評価であることと、教育・指導による向上の余地あることなどから解雇を無効としました(東京地裁平成11年10月15日)。それ以外でもレジの記録と現金が食い違うミス6回で解雇された事例でも、ミスは軽微で解雇しなければならないほどの事情はないとして解雇を無効とされております(大阪地裁平成7年4月28日)。
コメント
本件で福岡地裁は、些細なことで不機嫌になるなど協調性に欠ける面はあったとしつつ、「業務の遂行に必要な能力を欠いている」とまでは言えないとして解雇を無効としました。さらに未払残業代など約71万円と未払賃金分約30万円の支払いを命じました。以上のように能力不足を理由とする解雇の場合、裁判所はかなり限定的に解釈して判断していると言えます。単に営業成績が低いことや、考課で下位に位置しているといったことだけでは業務遂行能力が著しく不足しているとは認められにくいと考えられます。コミュニケーション能力についても、その担当する部署や業務内容など、どの程度の能力が求められるかなども判断要素となるものと言えます。解雇を検討する際にはこれらの要件や裁判例の傾向などを踏まえ、慎重に進めていくことが重要と言えるでしょう。
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