職種限定合意の職員に対する「同意なき配置転換」は違法 ―最高裁
2024/05/01 労務法務, 労働法全般
はじめに
労使間で職種限定合意がある場合に、使用者において、労働者の同意なしに配置転換を命じる権限はないとする初判断を、4月26日、最高裁判所が示しました。
原告男性が従事していた業務に関し、受注減少を理由に廃止の方針があった中、使用者である被告が、男性を欠員のあった別事業部へ合意なく配置転換したことから、その適法性を巡り裁判となったものです。訴訟では、業務廃止が見込まれる中でも、職種限定合意がある場合の一方的な配転命令が違法となるのかが注目されていました。
配置転換の背景と訴訟までの経緯
報道などによりますと、原告の男性は2001年から、滋賀県社会福祉協議会が運営する福祉施設で福祉用具を扱う技術職として働いていました。
しかし、2019年3月、男性に事前の打診なしに総務課の施設担当係に配転する人事を内示されたといいます。
配転を命じられた背景として、受注減少により、施設での福祉用具の製作業務を廃止する方針があったこと、異動先の総務課で欠員が生じていたことなどがありました。
男性は、配置変更の際に合意がなかったことを理由に人事の撤回を求めましたが、施設側に受け入れられず、退職したということです。
協議会側は、配置転換に関し、「需要がなくなる技師として勤務させ続ける経営上の合理性はなかった」などとして、その適法性を主張しました。これに対し男性側は、「労働契約で職種を限定していた状況下では、協議会側は同意なしに技術職から総務課へと職種を変えることは許されない」と反論しました。
最高裁で二審を破棄差し戻し
■第一審・第二審判決
一審・二審共に、男性と協議会側との間で、男性を技術職として就労させるとする職種限定合意があったことを認定。その一方で、施設では男性が従事していた技術職の業務が廃止される方針だったことから配置命令には解雇回避の目的があったと判断。総務課への異動は業務上必要で、合理的な理由があったとして配転命令を有効としました。
■最高裁判決
しかし、最高裁判決では、原判決が破棄され、差し戻しとなりました。
最高裁判所は、職種限定合意があった中では、使用者である協議会側は、「配置転換に関する同意を得ずに、総務課施設管理担当への配置転換を命ずる権限をそもそも有していなかった」と判断しました。
その結果、「協議会側が配転命令をする権限を有していたこと」を前提に判断された二審判決をくつがえす形となり、本件配置転換が損害賠償の対象となり得るかなどを再度審理させるため、大阪高裁に差し戻す決定を下しました。
労働条件明示のルールが強化
働き方の多様化が進む昨今、事前に職務内容を明確に定義する“ジョブ型雇用”が普及しつつあるほか、今年4月からは「労働条件明示のルール」が強化されています。
この「労働条件明示のルール」については、2024年4月1日以降に締結される労働契約が対象となっており、全ての労働者に対する就業場所などの明示が義務付けられたほか、有期契約労働者に対しては、更新条件・無期転換の条件なども明示することなどが定められました。
労働条件明示のルール
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コメント
今回、使用者である協議会側としては、解雇を回避するための手段として配置転換を行った側面も多少なりともあったと推測されますが、職種限定合意がある中では、使用者側に労働者の同意なく配置転換する権限がないことが明確になりました。
今後、労務実務としては、職種限定合意がある労働者に対し、丁寧に配置転換の同意を求めたうえで、どうしても同意が得られない場合に、退職勧奨または整理解雇を検討するという流れとなりそうです。
労働契約についてのルールが変わる中での今回の最高裁判所の判決。労働者に対する条件の明示と、条件変更の際の丁寧な同意取得が重要になりそうです。
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