ヘリコプター預託で措置命令、預託販売商法について
2024/05/23   コンプライアンス, 行政対応, 消費者契約法

はじめに

 消費者庁が16日、航空機販売会社「エスアイヘリシス」(千代田区)に対し、預託法違反で措置命令を出していたことがわかりました。ヘリコプターの共同所有権を販売していたとのことです。今回は預託法による販売預託商法規制を見ていきます。

 

事案の概要

 消費者庁の発表などによりますと、エスアイヘリシスは合同会社アドバンスサポートとの間で航空機等の賃貸借契約を締結し、複数の消費者との間で航空機等の所有権(共有持分)と貸主の地位の売買契約を締結したとされます。同社はアドバンスサポートに対し消費者と連名で貸主を同社から消費者に変更する通知をし、その後はアドバンスサポートから消費者に賃料が支払われているとのことです。このような契約は預託法の預託等取引契約に該当するとし、内閣総理大臣の確認を受けない預託等取引契約の勧誘・契約に当たるとして消費者庁が同社に対し直ちに違反行為を取りやめるとともに再発防止等を命じる措置命令を出しました。

 

販売預託商法とは

 販売預託商法とは、事業者が商品を販売して、消費者が代金を支払うとともに事業者にその商品を預けて、預かった商品を事業者が運用して利益を発生させ、その利益の一部を消費者に配当するといった取引を言います。このような商法では、約定通りに配当金が支払われなかったり、配当を運用益ではなく他の消費者の購入代金でまかなうなどいわゆる自転車操業となることも多く、そもそも対象商品自体が実在しないということもよく見られます。このような商法では過去に莫大な消費者被害を出す事件も多発しております。有名な例としては金地金を販売していた豊田商事事件、子牛を販売していた安愚楽牧場事件、磁気治療機器を販売していたジャパンライフ事件などが挙げられます。いずれも被害総額は数千億円にのぼり、特にジャパンライフ事件では消費者一人当たりの被害額は2500万円を超えております。このような事態を受け預託法が令和3年に改正され、販売預託商法に対する規制が強化されました。

 

預託法による規制

 預託等取引に関する法律(預託法)2条によりますと、「預託等取引」とは、当事者の一方が相手方に対して物品の預託を受けることおよび預託に関して財産上の利益を供与することを約し、または物品の預託を受けることおよび一定期間経過後に一定の価格で買い取ることを約し相手方がこれに応じて物品を預託することを約す取引を言うとされます。従来は対象商品を宝石や貴金属、盆栽や哺乳類、ゴルフ場利用権、ヨット等の係留施設利用権、言語学習のための施設利用権などに限定されておりましたが、現行法ではそのような制限は無く、全ての物品が対象となります。

 このような預託等取引は原則として禁止となり、例外的にあらかじめ内閣総理大臣(消費者庁)の確認を受けた場合に預託等取引の勧誘等が可能となります(9条1項)。確認を受けずに行われた預託等取引契約は全て無効となり、確認を受けずに勧誘や契約締結を行った場合は措置命令等の行政処分の対象となります(19条等)。また罰則として5年以下の懲役、500万円以下の罰金またはこれらの併科、法人には5億円の罰金が規定されております(32条1号、38条1号)。

 

預託等取引業者への行為規制

 確認を受けた預託等取引業者にも一定の行為規制が設けられております。まず書面の交付義務が課されております(3条)。契約の締結前に契約の内容等を記載した書面を、契約の締結時と更新時にも書面を交付することが必要です。そして不当な勧誘行為等が禁止されております(4条)。具体的には重要事項(供与される財産上の利益の金額等)に関する不実告知、故意の不告知、威迫困惑行為が禁止されております。さらに預託等取引業者には書類の備え置きなども義務付けられます(6条)。業務および財産状況を記載した書類の備え置き、預託者ごとに帳簿書類の作成および保存が必要で、預託者はこれらを閲覧、謄写、交付請求をすることができます。これらの違反した場合についても罰則が用意されており、3年以下の懲役や300万円以下の罰金などが科されることがあります(33条1号等)。

 

コメント

 本件でエスアイヘリシス社はヘリコプターや小型飛行機などの共同所有権を1口110万円で販売し、岐阜県のイベント運営会社に賃貸し、賃貸人の地位を顧客に譲渡して1口あたり月6000円の賃料を支払っていたとされます。消費者庁はこれらの行為を預託等取引に該当するとし、確認を得ずに勧誘・契約を行ったとして措置命令を出しました。以上のように現在では物品や権利を販売してそのまま預かり運用するといった商法は原則として禁止されております。これまで同様の商法で膨大な被害を出す事例が相次いでいたことから法改正により罰則もかなり強化され、対象商品も無制限となりました。あらゆる権利や不動産等でも適用があります。自社の取引形態に問題は無いか、今一度チェックし直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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