グーグルマップに悪評口コミで賠償命令、名誉毀損と発信者情報開示
2024/06/06   IT法務, 訴訟対応, インターネット問題, 刑事法, プロバイダ責任制限法

はじめに

インターネット地図サービス「グーグルマップ」の口コミに一方的に悪評を投稿して名誉を毀損したとして、兵庫県の医療法人が削除と損害賠償を求めていた訴訟で、大阪地裁が削除を命じていたことがわかりました。同様の訴訟が全国で多発しているとのことです。今回は名誉毀損的な書き込みと発信者情報開示を見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、グーグルマップの口コミで兵庫県尼崎市の眼科医院について、「勝手に右目はレンズを入れられていました。最悪」「何も症状もないのにまた勝手に一重目蓋にされました」「他の眼科へ行くことをお勧めします」などと投稿されていたとされます。これに対し眼科を運営する医療法人は、事前にグーグルを相手取って発信者情報の開示を求める訴訟を提起し、投稿者を特定していたとのことです。同法人は投稿者を相手取り、口コミの削除と200万円の損害賠償を求め、大阪地裁に提訴しておりました。なおグーグルマップの口コミを巡っては、全国の医師ら約60人が4月にグーグルを相手取って計約140万円の損害賠償を求め東京地裁に提訴しております。

 

名誉毀損的投稿とは

 刑法230条によりますと、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」としております。名誉毀損はこのように「公然」「事実を摘示」「名誉を毀損」という3つの要件で成り立っております。これは民事での名誉毀損もほぼ同様です。そして名誉の毀損とは、人の社会的評価を低下させることとされております。人の社会的評価の低下の有無については、一般人の普通の注意と読み方を基準とするとされます。具体的な事実を摘示せず、単に「馬鹿」「ペテン師」「悪党」といった雑言は名誉毀損ではなく侮辱罪の対象となります。なお名誉毀損は、(1)表現内容の公共性、(2)表現目的の公益性、(3)摘示内容の真実性が認められる場合は違法性が阻却されるとされます。また内容が真実でなかったとしても、真実と信じるにつき相当な理由が認められる場合には責任が阻却されると言われております。

 

発信者情報開示

 このように名誉毀損的な悪評や誹謗中傷が投稿された場合どのように対処すればいいのでしょうか。まずそのような投稿の削除を求めるにしても、損害賠償を求めるにしても投稿者を特定する必要があります。掲示板やSNSなどの運営者、プロバイダ等に任意に発信者を特定する情報開示を求めることも可能ですが、功を奏すことは稀と言えます。そこでプロバイダ責任制限法に基づいて発信者情報開示請求を行うことが可能です。同法で対象となるのは「特定電気通信」です(5条)。これは不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信とされており、誰もが閲覧可能なウェブサイト上の通信を言います。そして請求権者は自己の権利を侵害されたとする者で、自然人に限らず、法人や権利能力なき社団も含まれるとされます。

 

発信者情報開示の流れ

 発信者情報開示請求をするためには、権利侵害が明白であることと、発信者情報を取得することについての正当な理由が必要です。名誉毀損の場合、通常の損害賠償請求訴訟では違法性阻却については被告側が主張立証しますが、発信者情報開示請求では申立人が違法性阻却事由に該当しないことを証明する必要があります。そして正当な理由とは私的に制裁するといった不当な目的ではなく、損害賠償や削除などを法的に求めるといった理由を指します。そして具体的な手順としては、まず裁判所に発信者情報開示命令の申し立てを行います(8条)。裁判所で審理が開始し、裁判所から掲示板等の運営者に対してIPアドレスの提供命令と、プロバイダ等に発信者情報の消去禁止命令が出されます(15条、16条)。裁判所がプロバイダ等に発信者情報開示命令を決定で出すこととなります。なおその際に投稿者側へはプロバイダから情報開示に同意するか否かを確認する照会書が届きます。

 

コメント

 本件ではグーグルマップ上の口コミ欄に、「勝手に右目はレンズを入れられていました。最悪」などの悪評が投稿されておりました。これに対し大阪地裁はこれらの投稿について、患者から適切に承諾を得ることなく勝手な医療行為をするとの印象を一般の閲覧者に与えたとして名誉毀損を認め、200万円の損害賠償と口コミの削除を命じました。事実を摘示し、眼科医院の社会的評価を低下させる書き込みであったと認められたものと言えます。以上のように近年ではSNSや掲示板だけでなく、グーグルマップの口コミ欄にも悪評や名誉毀損的な書き込みが多数見られるとされます。このような書き込みは店舗を利用しようとする顧客に大きな影響を与えるもので、早急な対処が必要と言えます。どのような場合に名誉毀損となるか、どのような対応が可能かを確認しなおしておくことが重要と言えるでしょう。

 

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