冷凍ケーキが崩れて配送、販売会社側が運送会社訴えるも請求棄却
2024/06/18   契約法務, 民法・商法, 物流

はじめに


香川県内の販売会社が2020年にネット販売したケーキが、一部崩れた状態で配送されたとして、運送会社に対し、損害賠償を求める裁判が提起されていました。約2年半の係争の末、2024年5月30日に下された判決では、販売会社側の請求が退けられる結果となりました。

 

出荷前の予冷が十分だったかが争点に


報道などによりますと、ケーキの販売会社は2020年12月、香川県にある菓子店が製造したクリスマスケーキなどの冷凍ケーキ合わせて約1万1500個をネットで販売したとされています。

配送前、販売会社はケーキを箱詰めし、店内などで冷凍。その後、冷凍ケーキは運送会社に引き渡され、購入者へ届けられました。

しかし、届けられたケーキのうち、約750個が崩れた状態だったといいます。そのため、販売会社は購入者に対し、代金の返金対応を行いました。

その後の2021年12月、販売会社は、冷凍ケーキが崩れた状態で届いたのは「荷物の管理がずさんだったからだ」として、運送会社を相手取り、ケーキ代金の返金分や運送料の支払いを求めて、高松地方裁判所丸亀支部に提訴しました。

裁判では、出荷前に販売会社側がケーキを十分に予冷していたか否かが大きな争点となりました。販売会社、運送会社それぞれの主張は以下です。

■販売会社側(原告)
十分に予冷していた。冷凍せずに出荷したことはない。
ケーキが崩れたのは、配達途中で段ボールが荷崩れを起こしたといった、衝撃が強くかかったとしか考えられない。

■運送会社側(被告)
完全に冷凍していれば落下や転倒があっても大きな損傷につながらない。
冷凍が不十分な状態で出荷されたことから、輸送時の振動や衝撃で崩れた。

このように、原告と被告がそれぞれの主張を展開し、約2年半に渡り法廷で争いましたが、裁判所は2024年5月30日に販売会社側の請求を棄却する判決を下しました。

判決理由として、
(1)運送会社の冷凍車や冷凍倉庫に故障・不備がなかったことなどから、ケーキ損傷の原因は、運送会社側の温度管理ではなく、販売会社側の予冷不足にあったと示唆されること
(2)当時、販売会社には多くの注文があり、現場が混乱していたことから、十分な予冷時間を取らないまま出荷に至ったことが強くうかがわれること

などが挙げられています。

 

運送業者の責任範囲は


ケーキの配送をめぐっては、過去にもいくつかトラブルが報じられています。2023年12月には、百貨店大手の株式会社高島屋が販売したクリスマスケーキ約2900個のうち1100個が、配送時に崩れていたことが大きく報道されました。

問題となったクリスマスケーキは、高島屋が販売し、埼玉県の事業者が製造および冷凍のうえ、運送会社が配送したされていますが、高島屋は販売責任者として購入者へ代金を返金しています。

このような配送トラブルの発生を念頭に、「標準貨物自動車運送約款」では、商品の配送を依頼する場合のルールをまとめています。

「標準貨物自動車運送約款」は、貨物自動車運送事業法に基づき、国土交通大臣が定める標準運送約款の一種です。一般貨物自動車の運送事業に関する運送契約は、原則、この運送約款の定めるところとなります(法令に反しない範囲で特約に応じることも可能)。

運送約款では、荷主の正当な利益を保護すべく、運送取引に関する基本的な事項が定められていますが、その中で、貨物紛失時や破損時の対応についても明記されています。

(1)貨物のすべてが滅失した場合は、時価での賠償となる  
(2)「天災その他やむを得ない事由」または「運送人が責任を負う事由」により滅失した場合は、運賃・料金は請求されない。(既に支払っている場合は払戻し)
(3)貨物に一部滅失または損傷があった場合の損害賠償の額は、その引渡しがされるべき地及び時における、引渡された貨物の価額と一部滅失又は損傷がなかったときの貨物の価額との差額により定められる
(4)貨物の中身に影響の無い、輸送梱包(外装)への損傷等は、原則、損害賠償の対象外

このほかにも、貨物事故で荷物の到着が遅れた場合について、

・建築現場の作業員が作業できなかった (人件費の請求)
・セール用商品が配達されず売上げが落ちた
・サンプルが配達されず商談ができなかった

といった間接的な損害が生じた場合でも、運送業者に故意や重大な過失がない限り、賠償の対象とはならない旨定められています。

また、商品の滅失や損傷があった場合、貨物を引渡した日から2週間以内に運送業者に知らせない限り、運送業者の貨物に対する責任は消滅するとされています。

 

コメント


以前からドライバー不足が叫ばれていた物流業界。2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制と改正改善基準告示が適用されたことで、ドライバー1人あたりの年間稼働時間が減ることになります。

これにより、人員不足の中、限られた稼働時間内で荷物を運ぶ必要があるため、ドライバーの負荷上昇や配送の滞りなどが原因で様々なトラブルが発生する可能性があります。

運送会社側も運送を委託する側も、トラブルに備え、しっかりと契約内容を詰めたうえで取引を行う必要があります。

 

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