東証が株取引の最低数を引き下げ検討、来年3月策定へ
2024/07/30 商事法務, 会社法
はじめに
東京証券取引所は24日、日本株を売買する際の最低株式数を変更し、1株単位での売買を可能とするルール変更を検討していると発表しました。来年3月を目処に策定されるとのことです。今回は売買単位と単元株式数について見ていきます。
事案の概要
東京証券取引所は、現在のルールで定められている売買単位の100株を1株に引き下げる変更を検討しているとされます。個人が少額でも投資しやすい環境を整備することが狙いとのことです。現行のルールでは株式を買おうとしても最低100株単位で買う必要があり、少なくとも株価の100倍の元手が必要となります。上場企業の約1割は取引1回あたり50万円以上必要とされ、1株単位で購入することが可能となれば、個人投資家の参入も敷居が下がるということです。しかし一方で1株単位で株主が増えることとなれば、株主総会の招集など、株式の管理コストが増加することも懸念されております。東証では機関投資家や証券代行機関などで構成する勉強会を10月から開き、来年3月を目処に策定する予定とのことです。
株式の売買単位
東京証券取引所では、かねてから個人投資家層にわかりやすく利便性の高い市場の実現を目的として売買単位を100株に統一する取組を進め、2018年10月1日から日本国内の株式の売買単位を100株に統一しております。また東証では望ましい投資単位の水準として50万円未満と定め、その水準への移行および維持に務めることを上場規則に置いております。このように現在東証では100株単位で売買されるのが原則となっておりますが、それでも株価の100倍の元手を要する点で欧米よりも投資ハードルが高いとされます。そこで東証はこの売買単位100株を1株以下にルールを変更することを検討しております。
単元株式制度
元来株式会社は定款で定めることにより単元株式制度を導入することができます(会社法188条1項)。この制度は株主管理コストを削減することが目的とされます。一定数の株式を保有する者を株主として議決権を与えるというものです。単元株式数は10株や100株、1000株といったまとまった株式数が設定されることが多いと言えますが、この数には一定の制約があり、1000株を超えることができず、また発行済株式数の200分の1を超えることもできません(会社法施行規則34条)。単元株式数に満たない場合は議決権が行使できませんが、それ以外にも定款で定めることにより権利行使を制限することができます(189条2項)。なお単元未満株式の買取請求権や取得条項付株式の取得対価受領権、残余財産分配請求権等については権利行使を制限することはできません。
単元株式数の変更
現在、上場会社の単元株式数は100株とされております(上場規定427条の2)。しかしそれ以外の会社では単元株式数を設定していない場合や、設定していても単元株式数を1000株としている場合などもあると言えます。単元株式数は定款で定める必要があることから、原則として株主総会の特別決議を要します(会社法466条、309条2項11号)。例外として株式分割と同時に単元株式数の設定または増加をする場合で、これにより株主の議決権が減少しないような場合には株主総会決議によらず、取締役会決議で定款変更が可能とされております(191条)。また単元株式数を減少させたり、撤廃する場合も株主総会決議によらず取締役会決議で可能です。単元株式制度は会社の便宜のため株主に一方的に不利益を課すものと言え、それを廃止または減少することは株主にとって利益だからです。
コメント
東京証券取引所では個人投資家が参入しやすくなるよう、売買単位と投資単位水準の適正化を進めてきました。2018年には売買単位が100株とされ、上場規定でも単元株式数を100株とするなど100株単位の取引が推進されてきたと言えます。そして昨今さらに売買単位を1株以下とする方針が打ち出されております。元来単元株式制度は多数の株主が常時入れ替わる上場会社の株主の管理コスト削減が想定されていたと考えられますが、個人投資家の参入のハードルを下げるためあえて取引の単位を下げることが検討されております。市場に流通する株式は、その数や単元数などによって価値が変動します。これらを調整する手法として、自己株式の取得や株式併合、株式分割などの制度も用意されております。それぞれの制度を柔軟に活用して適切な株価や株式数を目指していくことが重要と言えるでしょう。
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