「神戸ビーフ」など冷凍和牛を不正輸出、販売会社と社長に有罪判決 ―神戸地裁
2024/09/17 コンプライアンス, 通商法関連業務, 海事・物流・貿易に関する法務, 中国法, 国際商取引法
はじめに
「神戸ビーフ」などの冷凍和牛を不正に輸出したとして関税法違反と家畜伝染病予防法違反の罪に問われていた食料品販売会社、サンコートレーディング株式会社と同社社長に対する判決が、9月3日、神戸地方裁判所で言い渡されました。
会社に対しては求刑どおり罰金400万円、社長に対しては懲役2年6月・執行猶予5年と罰金200万円の判決となりました。
輸入規制厳しい香港などへカンボジア中継させ輸出
報道などによりますと、兵庫県西宮市の和牛販売会社、サンコートレーディングの社長は2023年8月と同年10月に、冷凍和牛合わせて約33.6トン、輸出申告価格約2億1,000万円の送り先としてカンボジアとウソの申告をし、輸出検疫証明書の交付を受けないまま香港などへ輸出したということです。
昨今、和牛が海外で人気となり需要が高まっています。農林水産省の統計によりますと、2023年に輸出された牛肉は約8,423トンで、前年比13%増。2019年比では、2倍以上となっています。
特に中国や香港などで人気が高く、高値で取引されることも多いといいます。
しかしながら、香港などへ牛肉を輸出する際には厳格な条件が課されています。例えば、香港食物環境衛生署(FEHD)は、輸入の条件として、「厚生労働省が認定した施設で、解体などが一貫して行われた日本産の牛肉であること」などを挙げています。
そのため、一部の輸入事業者の間では、香港などへ輸出する際、手続きが比較的容易なカンボジアを中継させ、密輸する手口が横行していたということです。
今回判決を受けたサンコートレーディングも同様の理由から輸出先を偽ったとみられています。
裁判所は判決の中で、「送り先を偽った船荷証券を使用した巧妙な手口である」と述べ、税関手続きの適正な処理を誤らせる悪質な犯行だと指摘しました。
一方で、社長の男は、今後は牛肉の輸出をやめると反省の態度が見られるため、執行猶予付きの判決となりました。
過去には、和牛の受精卵と精液持ち出し未遂で有罪判決となった事案も
不正輸出が画策されるのは、和牛肉そのものとは限りません。
2019年には大阪地方裁判所が、和牛の受精卵と精液を中国へ持ち出そうとした男に対し、有罪判決を言い渡しています。
男は元畜産農家で、2018年6月にある人物からの依頼を受け、中国へ不正に輸出すると知りながら受精卵と精液を473万円で譲渡。不正輸出を手助けした家畜伝染病予防法違反幇助の罪などに問われていました。
2019年12月25日、大阪地方裁判所は、男に対し懲役1年執行猶予3年、追徴金473万円を言い渡しました。
判決では「日本の畜産物の国際的信用を失わせるもので悪質だ」と糾弾しつつ、男が牧場経営を廃業したこと、起訴内容を認めて反省していることなどを考慮し、執行猶予が付けられる結果となりました。
(運搬役の男と指示役の男についても、家畜伝染病予防法違反罪などでいずれも有罪が確定しています。)
なお、男が譲渡した受精卵などは中国の税関で発見されたため、結果的に中国国内には持ち込まれなかったということです。
コメント
農林水産省の発表によると、日本の農林水産物・食品の輸出額は2012年から倍増し、2021年には1兆円を突破したといいます。その背景には、アジアを中心とした海外消費者の所得向上や訪日外国人の増加等に起因する日本の農林水産物・食品の魅力の伝播などがあるとされています。
その一方で、近年、和牛に限らず、高級ブドウ「シャインマスカット」など複数の輸出品目で不正輸出や流出が増加傾向にあるといいます。いわゆる日本産食品の「海賊版」とも呼ばれる食品の模倣品が流通することにより、1000億円以上の被害が出ているとする報道もあります。
農水省、国土交通省、税関など、省庁を超えた横断的な対応が求められます。
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