日本マクドナルドがアピアランスポリシー改訂、店員の髪色自由化
2024/09/17 労務法務, 労働法全般, 外食
はじめに
ハンバーガーチェーンを展開する日本マクドナルド株式会社は、9月10日、全国の店舗で働くアルバイトスタッフ(以下、「クルー」)の“髪色の規定”をなくし、自由化するとした『アピアランスポリシー』の改訂を発表しました。
髪色自由化で採用数3倍に
日本マクドナルドでは、店舗で働くクルーの『アピアランスポリシー』を定め、身だしなみに関する様々な項目について基準を設けています。
その中で、髪色についてはこれまで“自然な髪色”と指定していましたが、今回の改訂でこの制限を撤廃するということです。
その一方で、食品を扱い、接客を伴う仕事であることに鑑み、清潔感がありお客様へ不快感を与えないこと、フードセーフティに影響がない身だしなみとすることなどは、引き続き求めていくとしています。
今回の改訂に先立ち、大阪市の店舗で試験的に髪色自由化を導入したそうですが、「より仕事のモチベーションが上がった」、「自分らしさを認めてもらえているように感じる」などクルーからの評判は上々だったとのことです。
クルーの中には、髪色を染める実習課題が設けられた専門学校等の生徒もいるそうですが、アピアランスポリシーの改訂前は、実習期間中、仕事を休まなければならなかったといいます。しかし、今回の改訂で、そうしたクルーも継続した勤務が可能となり、店舗側としても人材不足の心配が少なくなったということです。
加えて、「自分らしく働ける場」として、クルーからの友人紹介が増え、今年4月には採用数が去年の約3倍となったといいます。
今回の改訂は、アメリカでマクドナルドを創業したレイ・クロックが掲げていた「ピープルビジネス」という理念が基となっています。ビジネスの基盤にはピープル、人々が大切だと考える理念です。
この理念のもと、宗教上の理由などにも配慮し、2021年にはクルーがひげを生やすことを認めています。
今回の改訂にあたり、日本マクドナルドは「性別、年齢、国籍など、さまざまな個性や背景を持った多様な⼈材が、個々の強みを最⼤限に発揮していきいきと働ける職場の実現を目指す」とコメントしています。
過去には“金髪をめぐる解雇の有効性”を争った訴訟も
憲法13条は「すべて国民は、個人として尊重される」と規定しており、この条文を根拠として、髪型・髪色・ひげの有無・アクセサリー・服装などを決定する自由が“自己決定権”として、個人に保障されているといわれています。
もっとも、会社は、自社と雇用契約を交わした労働者に対し、“業務の遂行上、合理的な範囲”で身だしなみについての基準を示し、規制することができるとされています。
こうした労働者の“自己決定権”に対する会社側の規制をめぐり、過去には会社と従業員が裁判となった事例があります。
■福岡地小倉支決平成9年12月25日
トラック運転手が髪の毛を金髪に染めて勤務したことを理由に諭旨解雇とされた事案です。
取引先に悪印象を与えることを懸念した会社側は運転手に対し、髪色を元に戻すよう指示。しかし、運転手は、
・髪色について会社が干渉するのは不当
・業務中はヘルメットをかぶるため髪色はよく見えず、取引先への悪印象にはつながらない
などと反論し、争う姿勢を見せました。
その後、運転手は髪色を戻したものの、会社側は十分ではないと判断。改めて染め直しを命じた上、始末書の提出を命じました。しかし、運転手がこれを拒否したため、会社は諭旨解雇を通告します。
運転手は解雇権の濫用で無効であるとして、労働契約上の地位にあることの確認と賃金の支払いを求め、福岡地方裁判所に仮処分を申し立てました。
福岡地方裁判所は判決の中で、髪色などの人の人格や自由に関する事柄について、企業が企業秩序の維持を名目に労働者の自由を制限しようとする場合、
「その制限行為は無制限に許されるものではなく、企業の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内にとどまるものというべく、具体的な制限行為の内容は、制限の必要性、合理性、手段方法としての相当性を欠くことのないよう特段の配慮が要請される」
と指摘。そのうえで、本件の具体的な事情に照らし、今回の解雇は著しく不合理かつ相当性を欠いたもので、解雇権の濫用として無効であるとしました。
コメント
営業職や接客業など、業務上、お客に不快感を与えないよう配慮が求められる職種は多く、身だしなみに関する規定などを定める企業は少なくありません。
一方で、ご紹介した判例にあるように、憲法上保障された個人の自己決定権を企業が制限する際には、かなり慎重な運用が求められます。
また、国内外で、多様な人材の活用による価値創造を図る「ダイバーシティ経営」の推進が行われており、個人の価値観を尊重し、その能力を最大限発揮できる機会を提供することが求められています。
加えて、人手不足が叫ばれる中では、企業側は、「選ばれる企業」となるための努力も必要になって来ます。
こうした世相の変化を念頭に置きつつ、一度、自社の身だしなみ規定を改めて確認してみてはいかがでしょうか。
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